天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~

 雲朔は、裾長の禅衣(ぜんい)に、足首まで届く黒絹の深衣を羽織っている。総角(あげまき)を留めた銀の笄(こうがい)は、精緻な細工の見るからに高級なものだ。

(はああ、今日も素敵)

 私はお転婆だけれど、おませでもあったので、雲朔は初恋の相手だった。

 後宮になぜ男がいるのか。理由は雲朔が皇子だからだ。末っ子で第五皇子なので、皇位継承権は低いけれど、兄たちより抜群に頭が良かった。皇子なので科挙は受けないが、一発合格するであろうほどの実力は備えているらしい。

 ただ、生まれつき体が弱かったので、勉学よりも武技を重んじる大栄漢国の中では、さほど目立つ立場にはいないと本人が言っていた。しかし、私は頭が良く穏やかで優しい雲朔が大好きだった。

「どうして雲朔は私がはしたないことをやっている場面に来るのかしら。いつもはもっと妃らしく上品に過ごしているのよ?」

 私の言葉を聞いた女官たちが一様に「嘘つけ」と顔に出していた。