天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~

 以前、皇帝の宸室で見せてもらったものだ。どうしてこれがこんなところに。これは絶対に偶然ではないと、私の胸が高鳴った。

 真眩鏡を手に取り、その黒鏡に己の顔を映す。すると、真っ黒だった鏡がゆらゆらと動き、透明で澄んだ鏡となっていく。

 そして、その鏡に映し出されたのは私の顔ではなく、目を黒布で覆っている老人だった。

(雲朔が師匠と呼んでいた人だわ!)

「そこにいるのは誰だ」

 老人は地底に響くような厳格な声で訊ねた。

「わ、私は、華蓮と申します」

 慌てて返事をする。

「おお、そなたが華蓮か。雲朔がよく寝言で名を呼んでおったわ」

(そ、そうだったんだ……)

 私は恥ずかしくなって頬を赤らめた。

「綺麗な瞳をしておる」

「見えるんですか⁉」

 驚いて尋ねると、老人は口元を綻ばせた。

「目を隠していた方が、よく見えるものもある」

 よくわからないけれど、深い言葉なのだろうと思って安易に感心する。