天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~

 けれど……。

 私は香炉の煙を手を使って全身に浴びせた。そして、祭壇の前に膝をつき手を合わせる。

(天の神様、どうか御力をお借しください)

 昔から、数多いる後宮妃の中で、皇后だけが結婚式を執り行う理由。

 あれだけ大規模な祭壇を設け、神聖な式を行うのは、天に皇后をお披露目するためだ。皇后は皇帝と手を取り合い、天地を守る役割がある。

 私は必死で祈った。必ず天は雲朔の味方になってくれる。なぜなら雲朔にはその器があるからだ。私利私欲で動くような簒奪帝とは違う。民を憂い、家臣を守る気概がある。

(天の神様、どうか……)

 その時だった。私の後ろでゴトっとなにかが動く音がした。

 驚いて振り向くも、なにも変わったところはない。

(ネズミかしら)

 私が再び前を向こうとしたとき、見知った物が視界に入った。

(あれは……)

 立ち上がると、渾天儀の後ろに置いてある鏡に手を伸ばした。

(これは、真眩鏡)