65リットルよりも、笑って。





「───また見ているんですか」



医局にて、俺が座ったデスク。

背後から覗き込むように声をかけてきた男は、去年から研修医として働く後輩だった。


開いていたノートパソコンをパタリと閉じる。



「…呼び出しか」


「いいえ。とっても優しい顔をしていたので、からかってみたくなりまして」


「……邪魔されるのは嫌いだな」


「はは、すみません。…先生にとっての大切な時間ですからね」



やっぱりたまに会いたくなるんだ。

そのほとんどは、何気ない日々のなかでふとおまえを思い出したとき。


おまえがいなくなったあとはしょっちゅう見ては涙を流していたが、今は見るたびに笑顔になれるんだから不思議なものだ。



「あの斑鳩先生が心から愛した女性だなんて、俺もちょっとだけ気になるんですよ」


「…あのって、なんだ」


「え、知らないんですか?先生、ルックスがルックスなくせに女の影なさすぎて周りから“悟りを開いて解脱した”とか噂されていますからね」


「してるか」