「抗がん剤打ったら100万くれんの?」
「それは無理だ」
「はっ、つまんねえ~」
俺の即答に、ベッド脇に置いてあった空のペットボトルを投げつけてきた。
409号室。
とくにこの病室に思い入れがある俺は、主治医だからという理由以外でもこの生意気なクソガk……患者を放ってはおけない。
「じゃあ1000万。俺の前に用意したら考えるっつったら?」
「…それを貰ってどうする」
「ぜってえバレないカツラ買ってやる」
「…………」
高級オーダーメイドだったとしても相場は20万ほどだ。
中学生らしい思考回路に、どこか俺は穏やかな気持ちにもなる。
「100万も1000万も無理だが、───…抗がん剤治療をして“しあわせ”になった女を俺は知ってるぞ」
「…え?」
研修医を卒業して、繰り返す毎日を医者として過ごし、俺だけが歳を取っていく。
彼女は今もずっと俺の心のなかで無邪気でイタズラな少女のまま笑っている。
この5年、片時も忘れたことなどなかった。



