抗がん剤を打ちたくない───俺の前でそんなふうに言ってきた患者は2人目だった。
寸前になって嫌になる。
その気持ちだけは医者である俺たちもすべて分かってやることはできないものだった。
「…怖くなったのか」
なにが嫌なんだ、とは聞かない。
それは打ったことのない俺が聞く権利はないから。
「べつに怖くなんかねーよ。ただ…、友達とかも見舞いに来るだろ。そこでハゲた姿なんか見せたくないんだって」
「……彼女でもいるのか」
「っ、イケメンなイカルガ先生には薬でハゲさせられる俺の気持ちなんて分かんねーよ!」
拗ねたように布団にくるまる中学生。
俺はよくこの少年に、「イカルガ先生ってあんま喋らないけどしつこいよな」と言われる。
今日もまた言われるかもしれないが、俺はそばにある椅子に腰かけた。



