65リットルよりも、笑って。





車椅子の高さまでしゃがんで前髪をサラッと撫でてやったところで、なゆは緩やかに表情を優しくさせる。


俺たちが特別な気持ちを抱いて関わり合っていることは、すでに同僚たちの間では知られていた。

誰もが切なく微笑む。


今日の俺は医者じゃない、担当医じゃない。


好きな女と動物園デートに行く、ただひとりの男だ。



「16時までには戻りますので」


「万が一の場合は僕のほうに連絡をよろしくね。みんなにも知らせておくから」


「わかりました」



俺が運転する車の後部座席に車椅子ごとなゆを乗せる。

助手席に座らせたかった、なんて欲はもう考えてすらいなかった。


ただ、なゆがここに居ればいい。
俺の隣に居てくれればいい。


それ以上望むものを考えるほうが勿体ない。



「すげえ広いな…、どこから行くか」



園内マップを見ただけで迷う。

たどり着いた動物園。
平日というだけあって空いていた。


そういえばなゆが好きな動物を聞いていなかったか。