「桜って、なんでこんなに散るの早いんだろうな」
ゆっくり振り向くと、私のなかで散ってはいない桜が微笑んでくれる。
すぐに言葉を返すことが難しくなった。
単純に言葉が出にくくなった。
滑舌もうまく回らないため、話しづらい言語がたくさん。
私のそばには常に誰かがいるようになった。
「ちょっと寒いか?」
「…きもち」
「…なら、もう少し居るか」
院内のテラス。
1日1回、彼は必ず私をここに連れてきてくれる。
天気が良いときは「デートだな」とか、らしくないことまで言ってくるようにもなった。
簡単なことしか理解できなくなった自分に歯がゆい。
「たい、と、くん」
「ん…?なんだ、なゆ」
「どー、えん」
「どうえん…?」
そんなに優しい声をしてどうしたの。
私が1音1音、ゆっくり発音するたびに、しゃがみ込んだ大好きなひとは顔を寄せてくる。



