65リットルよりも、笑って。





「桜って、なんでこんなに散るの早いんだろうな」



ゆっくり振り向くと、私のなかで散ってはいない桜が微笑んでくれる。


すぐに言葉を返すことが難しくなった。
単純に言葉が出にくくなった。

滑舌もうまく回らないため、話しづらい言語がたくさん。


私のそばには常に誰かがいるようになった。



「ちょっと寒いか?」


「…きもち」


「…なら、もう少し居るか」



院内のテラス。

1日1回、彼は必ず私をここに連れてきてくれる。


天気が良いときは「デートだな」とか、らしくないことまで言ってくるようにもなった。


簡単なことしか理解できなくなった自分に歯がゆい。



「たい、と、くん」


「ん…?なんだ、なゆ」


「どー、えん」


「どうえん…?」



そんなに優しい声をしてどうしたの。

私が1音1音、ゆっくり発音するたびに、しゃがみ込んだ大好きなひとは顔を寄せてくる。