「私、覚えてる。昔ね、もうずっと前にね、折り紙で輪っかを作って繋げて、お母さんと家のなかを飾ったんだ」
忘れてなんかいない。
忘れたくない思い出は、ちゃんと覚えている。
今朝食べたものとか、自分の血液型とか。
そういうものはすぐ忘れちゃうけど、今よりずっとずっと前の記憶は忘れてない。
「…なんで、」
「うん?」
「なんで……いつもそんなに笑っていられるんだ」
親戚のこと、母親のこと、自分のこと。
私の人生ってたぶん、決して笑顔で話せるものじゃない。
でもさ、本人が笑顔ならそれでいーんだよ。
それでいいんだと思う。
「んー。…今が楽しいから、かなあ」
そばにある冷たくも温かい手を、小さく握ってみる。
先生も暇じゃないのにね。
私だけじゃなく、他の患者さんの体調も診なくちゃいけないのに。



