「でもね、忘れたい記憶ほど覚えてるの。これって脳の嫌がらせ?」
だんだんリハビリが難しくなってきた。
それは、私の症状が進んでいるということ。
「忘れたい記憶?」と質問しながら、休憩中の私の隣に腰かけたリハビリ担当の佐藤先生。
「……キスした」
「…え?」
「いや、された」
「…………」
あんなにしたいと言っていた女が、今度はされておいて不満そうだなんて笑えるよね。
念願のキスだったってのに。
「あっ、先生呼ばれてるよ。……おーい、聞こえてるー?佐藤せんせー?」
「っ、ああ、ごめん」
「あははっ、時間厳守な先生もそーいうとこあるんじゃん。いいよそのほうが人間っぽくて!」
この場所にいると感覚がおかしくなる。
みんながサポートに回っては支えてくれるから、いざ自分に余命宣告されていることをなぜか忘れてしまうんだ。
ああそうだ。
余命なんか忘れちゃえばいい。
それくらい安心が与えられているってことなんだろうけど……変な感じ。



