65リットルよりも、笑って。





「でもね、忘れたい記憶ほど覚えてるの。これって脳の嫌がらせ?」



だんだんリハビリが難しくなってきた。

それは、私の症状が進んでいるということ。


「忘れたい記憶?」と質問しながら、休憩中の私の隣に腰かけたリハビリ担当の佐藤先生。



「……キスした」


「…え?」


「いや、された」


「…………」



あんなにしたいと言っていた女が、今度はされておいて不満そうだなんて笑えるよね。

念願のキスだったってのに。



「あっ、先生呼ばれてるよ。……おーい、聞こえてるー?佐藤せんせー?」


「っ、ああ、ごめん」


「あははっ、時間厳守な先生もそーいうとこあるんじゃん。いいよそのほうが人間っぽくて!」



この場所にいると感覚がおかしくなる。

みんながサポートに回っては支えてくれるから、いざ自分に余命宣告されていることをなぜか忘れてしまうんだ。


ああそうだ。
余命なんか忘れちゃえばいい。


それくらい安心が与えられているってことなんだろうけど……変な感じ。