ここに来てからの私は少しおかしい…。

もう、泣く事なんて無いと思っていた。
母が亡くなり心の拠り所も、生きる気力さえも失くした筈だった。

ここに来る前は、このまま楽に死ねたら良いなとしか思っていなかったのに…。

彼らといると自然と涙が溢れ、温かい気持ちが蘇ってきてしまう。

私の事なんて放っておいてくれたらいいのに…
なぜか長谷川家の人々は皆、私の事を構ってくる。

司様といい、麻里子様といい…。

今朝も司様にお掃除のお手伝いを止められて、麻里子様と司様の身の回りのお世話を任された。

それならそれでご奉公させて頂きたいのに、司様のお手伝いはろくに出来ず、ネクタイの縛り方を練習するようにと言いつかっただけだった。

それではと、起きていらした麻里子様のお手伝いをと思うのに、部屋に伺えばお茶に誘われ、彼女が学校に行くまでの間、ただ話し相手になっていただけだった…。

お手伝い出来た事と言えば、不自由な足の代わりに移動の時の介助くらいだったから、手持ち無沙汰を感じてしまう。
何か仕事がないかと千代さんに問えば、麻里子様の宿題のお手伝いをと言い付かる。

だけど、お手伝いと言っても本の質問を読むだけで、これでは私は要らないのでは?と疑問に思わざるおえない。

『百合子さんはお客様なの。
何より貴方に怪我をさせてしまったのは、私のせいでもあるんだから仕事なんてしなくていいのよ。』

麻里子様はのほほんとそう言って、珍しい外国製のチョコレートを缶箱ごと私に渡してくる。

『いいえ、頂けません。』
と丁寧にお断りをするのに、

『これは貴方の為にわざわざ百貨店から取り寄せたのだから、貰ってくれないと困る』
と言う。

この兄妹は他人に贈り物をするが好きなのだろうか?

不思議に思うほど毎日が贈り物の嵐なのだから…。