買い物を終え車に戻る途中の本屋で司に呼び止められる。

店の軒先でなぜか店主と将棋をしていた司が、莉子達を見つけて寄って来る。

「店主、続きは次回。」
そう言って司は店主に伝える。

「お知り合いなんですか?」
仕事以外で誰かと馴れ合う司を知らないから、疑問に思って聞いてみる。

「前に店に立ち寄った時声をかけられて、将棋の相手をしてくれないかって誘われていたんだ。」

「それは、良い相手を見つけましたね。」
司が将棋に強いのは良く知っている。きっと楽しいだろうと思いながら、莉子は店主に頭をペコリと下げて本屋を後にする。

「莉子よりは強そうだから、相手として申し分ない。」
と、司が笑う。

「私も1局お願いしようかしら?」
と、莉子が言う。
そんな彼女の荷物を何気ない感じで受け取る司を垣間見て、亜子は驚いている。

しかも亜子にまで手を差し出してくるから、持っている大根や菜葉が入った風呂敷を、ぎゅっと抱きしめ首を横に振る。

司は苦笑いしてそれ以上は何も言わずに歩き出す。

「一緒に持つよ。」
優しい姉と一緒に半分ずつ持って司の後について行く。

莉子は家に帰って少し休んでから夕飯の準備を始める。それを見計らったように司が台所に来て、側で見守るように本を読んでいる。

休日はほぼそんな風に側に居てくれる。

莉子が寂しくないように、少しでも一緒にいる時間を大切にするように、休日はなるべく側にいてくれる司の優しさが見に染みる。

「今夜は何にするんだ?」

「新鮮なお魚が買えたので、カレイの煮付けにしようかと思ってます。後、大根のお味噌に菜葉のお浸し、肉じゃがなんてどうですか?」 

「肉じゃが良いね。魚は俺が捌く。」
司が本を閉じて近付いて来る。

「いつも、ありがとうございます。」

「俺が出来るのはそれぐらいだからな。」
何でもないような感じで魚を捌き始める。

小さい頃から血が苦手で、気分が悪くなってしまうほどだった。東雲家に居る時はそれでも手伝わなくちゃいけない時もあって、半泣きになりながら捌いていたくらいだ。

捌いているところは怖くて見れない。
司の背中に隠れるように一歩後退してしばらくそこで立ち尽くす。

ここに来てから初めての魚料理の日、決心して捌こうとしていた莉子の異変を、いち早く察知してくれたのは司だった。

それ以来、魚の日は必ず捌いてくれるようになったから助かっている。

「もう終わったぞ。」
気付けば魚の内臓は綺麗に取り除かれていた。

「ありがとうございます。」

そこから莉子の料理は手際よく進む。
普段はフワッとしている彼女だが料理をしている時は凜とした姿を見せる。
司はその姿が見たくて台所にいると言っても過言じゃない。

「亜子ちゃんの態度が悪くてすいません…。」
莉子が申し訳無さそうに司に言う。

「嫌われている事は分かっていたから気にしてない。少しずつ心を開いていってくれたらいい。」
司はさほど気にしていないようで莉子はホッとする。

小さな頃からさっぱりした性格ではあったが、今はもっと度を越してサバサバしている。

決して冷たい子では無いのだけど…会えなかった6年の間にいろいろ苦労があっあのだろうと思うと、何も言わずに見守る事しかないと莉子も思っている。