人気のない資料室に入ると、亜陽君は扉を閉めてから鍵をかける。


その意味は一体何なのか。


徐々に緊張してきた私は思わず生唾を飲み込み、彼の後ろ姿をじっと眺めていると、亜陽君は小さく溜息を吐いてからこちらを振り返った。


「もしかして、今朝から様子が可笑しかったのは全部あの男のせいなの?」


そして、全くの見当違いの質問に、私は一瞬目が点になる。


「まさか、あの男に何かされた?」


それから尚も続く亜陽君の尋問に対し、忘れようとした怒りが沸々と蘇ってきた。


「違う、そんなんじゃない!私は……」


そのまま勢いで昨日のことを吐き出してしまいそうになる手前。ふと我に帰り、開いた口を徐に閉じる。



亜陽君の不貞行為を問い詰めるには今が絶好のチャンスなのに。


けど、その先の答えを聞くのが急に怖くなり、次の言葉がなかなか出てこない。


それに、亜陽君の指摘も間違いではないので、余計何も言えなくなってしまう。


一刻も早くこの悶々とした気持ちを解消したいのに、肝心な所で臆病な心に邪魔をされ、その歯痒さに唇を噛み締める。


すると、突然亜陽君の手が腰に回った途端、勢い良く引き寄せられ、不意打ちの至近距離に軽いパニック状態となった私は、戸惑いの目で彼を見上げる。


亜陽君はもう片方の手で私の顎を軽く引き上げてきて、まるで先程の八神君状態に心臓が再び暴れ始めていく。


「美月には段階を踏んでからと思っていたけど……。もしかして、もうそんな悠長なことを言ってる場合じゃないのかも」


そして、独り言のように低い声で呟く亜陽君の言葉の意味が、よく理解出来なくて。


首を横に傾げた途端、急に視界が暗くなり、私の唇に亜陽君の唇が重なる。



「……ふ……う、あ……あおく……」


しかも、普段される優しいキスとは全然違う。


まるで喰らいつくような深く激しいキスに驚き、思わず彼の名前を口にするも、すかさず亜陽君の舌が私の口内に侵入してくる。


二日続けてのディープキスに驚きはしたけど、相手は亜陽君であるのと、昨日散々八神君に舌を入れられたので、あの時に比べると大分耐性が出来てきた。 


だから、私もされるがまま受け入れていると、不意に亜陽君は私から唇を離し、何やらとても怪訝な視線をこちらに送ってくる。



「ねえ美月。なんでそんなに余裕でいられるの?」


それから、予期せぬ核心を突いた質問に、私は目を大きく見開いてしまう。


「これまでこんなキスしたことなかったのに、やけに落ち着いてない?」


その上、更に痛いところを突かれてしまい、咄嗟に視線を逸らしてしまった。