白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


大病院の御曹司だから、本人の意志とは別に婚約の話が進むことは想像がつく。
それこそ、生まれた時から決められている相手だと言われても納得だ。

けれど、相手の女性も結婚する気がないのに、何故婚約したのだろう?
セレブの考えることは理解に苦しむ。

濃いめに淹れたお茶で脳内の整理を図ろうと、湯飲みに口をつける。

高級なお弁当を食べてしまった夕映は、『もう遅い時間ですよ』とは口が裂けても言えない。
どうやってお引き取り願おうか、普段使わないプライベート仕様の脳みそをフルに働かせる。

「黒瀬さん、男子高生と付き合える?」
「ブッ……何ですか、唐突に」

口に含んだお茶を拭き溢しそうになった。

「今二十九歳で、男子高生と結婚を意識した付き合いができるか?っていう質問だなんだけど」
「無理に決まってるじゃないですか。そもそも未成年相手だなんて、犯罪ですよ」
「だろ?」
「……??」
「俺の婚約者、十七歳なんだよね、今」
「………え」

脳内の記憶を物凄い速さで遡る。

プリーツのミニスカートに可愛らしいブラウス姿の女性。
確かに、見るからに若そうだなぁとは思ったけれど、十七歳だったとは思えない。
年齢を押し当ててみれば、大人びた女子高生のようにも思えるけれど。

「だからね、彼女とはこの先、どうこうなるとか考えたこともない。親に言われて仕方なく会うことはあっても……ね」
「……」

夕映は言葉を失ったまま、湯のみを両手で包み込むようにして、視線を落とした。
静寂が、二人の間に流れる。

ダメだ、思考が追いつかない。
婚約の定義も結婚の定義も、私の辞書にはまだ存在してなかったようだ。

ぐるぐると、ゴールのないトラックを周回しているような感覚。
次元の違う世界に迷い込んだ夕映は、返す言葉に困っていると。

「結婚したい人は、……いると言ったら?」
「ッ?!!!」

 彼の言葉に、心臓が跳ねた。
 まさか、そんな風に言われるなんて思ってもみなかった。

「……冗談ですよね?」

そう口にした湯のみを持つ手に彼の手が重なり、じんわりと彼の熱が伝わってくる。