暗闇の中、甘い匂いに誘われた俺は、それに手を伸ばすようにして。微睡から浮上した。閉じていた瞼を開ける。口内に唾液のようなものが溜まっていた。思わずごくりと飲んでしまってから、漂う香りが何なのかを認識して、息を詰まらせた。
匂いの元を探ろうとして、仕切られたカーテンの外側に誰かがいることに気づく。考えるよりも先に、布団を頭まで被った。匂いを無闇に嗅がないようにするための、せめてもの抵抗だった。
そこにいるのはケーキだ。これは、ケーキの匂いだ。呼吸が荒くなっていく。飲んでも飲んでも溢れてくる涎が、俺の心臓を高鳴らせていく。体温が上がり、次第に興奮していく。ケーキだ。目と鼻の先に、ケーキがいる。喰える。喰いたい。ダメだ。我慢しろ。我慢しろ。我慢。我慢。我慢。
寝起き特有の眠気は、ケーキの匂いのせいで一瞬にして吹き飛んでいた。そこにいるのは誰だ。誰でもいいから出て行ってほしい。俺は誰のことも喰いたくない。喰いたくないのに、身体はその血肉を欲しがっている。
睡眠をとったところで、フォークの欲求が治まるわけではなかった。そんなのは、意識が飛んでいる間だけだ。そうだ、だから。それならば。また、意識を飛ばせば。
「渕野くん、そこにいるんだよね……?」
興奮している状態では寝られるはずもないのに意地でも寝ようと目を閉じた時、布団とカーテンを挟んだ向こう側から籠もった声がした。聞き覚えのある声だった。その声で、名前を呼ばれた。そこにいるのかと問われた。食欲に侵されそうな俺は、何も答えられなかった。それが答えだった。布の擦れる音は、きっと彼の耳にも届いている。息苦しくても、布団から顔を出すことはできなかった。
匂いの元を探ろうとして、仕切られたカーテンの外側に誰かがいることに気づく。考えるよりも先に、布団を頭まで被った。匂いを無闇に嗅がないようにするための、せめてもの抵抗だった。
そこにいるのはケーキだ。これは、ケーキの匂いだ。呼吸が荒くなっていく。飲んでも飲んでも溢れてくる涎が、俺の心臓を高鳴らせていく。体温が上がり、次第に興奮していく。ケーキだ。目と鼻の先に、ケーキがいる。喰える。喰いたい。ダメだ。我慢しろ。我慢しろ。我慢。我慢。我慢。
寝起き特有の眠気は、ケーキの匂いのせいで一瞬にして吹き飛んでいた。そこにいるのは誰だ。誰でもいいから出て行ってほしい。俺は誰のことも喰いたくない。喰いたくないのに、身体はその血肉を欲しがっている。
睡眠をとったところで、フォークの欲求が治まるわけではなかった。そんなのは、意識が飛んでいる間だけだ。そうだ、だから。それならば。また、意識を飛ばせば。
「渕野くん、そこにいるんだよね……?」
興奮している状態では寝られるはずもないのに意地でも寝ようと目を閉じた時、布団とカーテンを挟んだ向こう側から籠もった声がした。聞き覚えのある声だった。その声で、名前を呼ばれた。そこにいるのかと問われた。食欲に侵されそうな俺は、何も答えられなかった。それが答えだった。布の擦れる音は、きっと彼の耳にも届いている。息苦しくても、布団から顔を出すことはできなかった。



