甘美な果実

 だからといって、俺の目の前で何かを食べることに罪悪感のようなものを感じてほしくはなかった。気を遣われるのは好きではない。こちらとしても、分かりやすく遠慮されると、自分のせいでと多少なりとも暗い気持ちになってしまう。相手にはいつも通り自然なままでいてほしい。

「なぁ、思ったんだけど、もし本当に恋が原因で瞬がフォークになったなら、瞬にも春が来たってことだよな」

 口内で飴を転がす紘は、顔が無駄に良いだけの口の悪いサドを好きになる人って一体どんな人なんだろうな、と褒めているのか貶しているのか分からない台詞を真面目に口にする。文字通り、割と真剣な表情のため、褒めているつもりも貶しているつもりもないのかもしれない。ただ、こういう人間を好きになるような人はどんな人なのかという疑問を零しただけ。

 顔が無駄に良いだけの口の悪いサド。申し訳ないが、普通に悪口に聞こえてしまう。そう思うだけで、特に傷つくことも苛立つこともないが。

「瞬に憧れてるのは大体女子だろうし、その女子も顔ファンがほとんどだろうから、誰がガチ恋してるのか全然分かんねぇな」

「……顔ファン? 俺に?」

「鈍感かよ。いや、瞬の場合は無関心で無頓着なだけか。顔が好きっていうだけの女子もいれば、蔑まれて罵られたい、って顔熱らせてマゾな発言してる女子もいるんだけど」

「……それは頭やられてる。かなり気持ち悪い。女子ってそんなきもかったっけ」

「ふ、はは、それはストレートすぎるって。でもほんと、そういうところだよ」

 行儀は悪いかもしれないが、飴を舐めながらでも器用に舌を動かしてスラスラと喋ることができる紘は、俺の言葉に噴き出すように声を立てて破顔した。