甘美な果実

 クラスメートの視線が、互いを探り合うように彷徨うのを感じた。会話に入ることなく沈黙している人のことも見ているかもしれない。フォークか、フォークじゃないか。些細な仕草を観察して、判断しようとしているのかもしれない。俺に目を向けている人もいるかもしれない。顔は上げられなかった。上げられないまま、また、喉に唾を通した。

 息が詰まるような、嫌な空気だった。悪い流れだった。これでもし、俺がフォークであることが知られてしまったら、ほぼ全員が懸念し、中には死ねとまで思っている少数派のフォークであることも知られてしまったら、俺はきっと、殺人鬼が逮捕された時に受けるであろう死刑とは違う私刑を、クラスメートから受ける羽目になるだろう。そのような空気感が漂っていた。集団心理だった。私刑など、杞憂であればいいのに。

 らしくない。自分でもらしくないと思ってしまう思考に陥ってしまうほどに、今の俺には余裕がなかった。篠塚に対する食欲を制御しなければならない。クラスメートに悪のフォークだと見破られないように、細心の注意を払わなければならない。そうしながら、いつもの自分の姿を見せなければならない。

 伏し目がちのまま、唾を飲む。誰も俺に気づかなければいい。誰も俺を見なければいい。空気になってしまいたい。変な注目は浴びたくない。篠塚を喰いたくてたまらない。

 動悸が酷くなる。この重たい空気に頭痛がする。謎のプレッシャーに人知れず飲み込まれそうで、吐き気すら覚える。俺以外にフォークの人はいるのか。篠塚以外にケーキの人はいるのか。フォークは分からないが、ケーキは、このクラスには篠塚以外にいなかった。ケーキかどうか知りたがっている人は全員ケーキではないことを俺の口から言ってしまえば、この息苦しさから解放されるだろうか。

 自棄を起こすように自ら名乗ってしまいそうになったが、それはリスクが大きすぎる、と唇の内側を噛んで思い直した。目立つ行動はしたくない。このまま話題が変われば、誰かが別の話題を提供してくれれば、フォーク探しなどしようとはしないはずだ。そのような空気になれば、俺のやるべきことが、これまで通り、食欲の制御だけで済む。