甘美な果実

 脳味噌を喰う。篠塚の頭を開いて、脳味噌を喰う。ケーキの身体は、どこを喰っても美味いに違いない。脳味噌はどんな味がするのだろうか。噛めば彼の思考も読めるだろうか。喰いたい。喰いたい。篠塚を喰いたい。俺は避けているのに、無防備に近づいてくる篠塚が悪いのだと全ての責任を彼に押し付けて、抑圧を解除して、本能を解放して、喰って、貪って、もう、楽になってしまいたい。悪いのは、我慢する俺を行動で煽る篠塚だ。

 唇を舐めた。誰も彼もが、殺人鬼に対する不満や被害者に対する同情を落ち着きなく喋り散らかす中で、俺は同じ空間にいる篠塚のことだけを考えた。喰いたくて、喰いたくて、喰いたいから、考えた。篠塚以外のことを思い浮かべて欲求を萎えさせようとしても、強力な磁石のように思考が引っ張られ、どんなに足掻いても結局は篠塚の元へ舞い戻ってしまう。篠塚を喰う妄想を、止められなかった。

 生きたまま喰うか、殺してから喰うか。殺人鬼はどうしているのだろう。ケーキ諸共一家全員を殺してからゆっくり味わっているのだろうか。ケーキだけは生きたまま喰い散らかしているのだろうか。俺だったら、そのまま喰って、ケーキを、篠塚を、押さえつけて、そのまま喰って、喰って、喰い殺してしまうかもしれない。恐怖に泣き叫んでも知らない。その涙すら味わいたい。きっと自分をコントロールできない。

 涎が止まらない。飲み込んだ。何度も何度も、飲み込んだ。理性的でありたいのに、篠塚を貪る自分を想像して、その味に期待して、高揚してしまう。

 ケーキが欲しい。篠塚が欲しい。ケーキを喰いたい。篠塚を喰いたい。頭のてっぺんから足の爪の先まで全部。唾液を飲み干して、皮膚を噛み千切って、血液を飲み干して、内臓を噛み千切って、気の済むまで飲み喰いしてしまいたい。骨の髄まで、篠塚を味わいたい。