「あ、いいっていいって、わざわざ新しいのに変えなくても。使ったスプーンで食え食え」
「いや、でも……」
「間接キス気にしてんの? 大丈夫大丈夫。俺も瞬も全然気にしないから」
気にしないよな、と紘に笑顔で圧をかけられ、適当に頷いておいた。気にしないのは本当だ。誰が手をつけたところで、味を感じるようになるわけでもあるまい。
何も変わらない、と諦めにも似た感情が湧き上がりそうになったところで、ふと、何かに導かれるように、篠塚の使用したスプーンに目がいった。新しいものを取ろうとしていた篠塚の手が、二人が、そういうの、気にしないなら、と机に置かれていたスプーンを掴む。その動作を食い入るように見てしまった。
「ひとくち、もらうね」
たどたどしく言いながら、篠塚は右手に持ったスプーンをガトーショコラに近づけた。篠塚がイチゴパフェを食べる際に口をつけたそれが、まだ欠けていない角に差し込まれる。
唾を飲んだ。喉が動いた。胸が跳ねた。唇を舐めた。欲が溢れた。そして、唐突に理解した。紘が篠塚の行動を止めた理由を。未使用の食器に変えさせなかった理由を。
息が、零れる。紘の粋な計らいを察して、全身が熱くなる。篠塚はケーキだ。フォークにとって、その身体のどこを食べても美味しいと感じる甘美な存在だ。それが例え、唾液であったとしても。間接的な接触であったとしても。
「美味しい」
ガトーショコラを咀嚼して飲み込み、文字通り美味しそうに顔を綻ばせる篠塚は、ありがとう、と俺の目を見て控えめに、照れたように笑った。美味いよな、味が濃いよな、と横で紘が賛同する。どさくさに紛れるようにして、紘のフォークが再びガトーショコラを突く。いい。別にいい。篠塚が食べた部分さえ残してくれれば。俺の左手が、自然と、音もなく、動いた。
「いや、でも……」
「間接キス気にしてんの? 大丈夫大丈夫。俺も瞬も全然気にしないから」
気にしないよな、と紘に笑顔で圧をかけられ、適当に頷いておいた。気にしないのは本当だ。誰が手をつけたところで、味を感じるようになるわけでもあるまい。
何も変わらない、と諦めにも似た感情が湧き上がりそうになったところで、ふと、何かに導かれるように、篠塚の使用したスプーンに目がいった。新しいものを取ろうとしていた篠塚の手が、二人が、そういうの、気にしないなら、と机に置かれていたスプーンを掴む。その動作を食い入るように見てしまった。
「ひとくち、もらうね」
たどたどしく言いながら、篠塚は右手に持ったスプーンをガトーショコラに近づけた。篠塚がイチゴパフェを食べる際に口をつけたそれが、まだ欠けていない角に差し込まれる。
唾を飲んだ。喉が動いた。胸が跳ねた。唇を舐めた。欲が溢れた。そして、唐突に理解した。紘が篠塚の行動を止めた理由を。未使用の食器に変えさせなかった理由を。
息が、零れる。紘の粋な計らいを察して、全身が熱くなる。篠塚はケーキだ。フォークにとって、その身体のどこを食べても美味しいと感じる甘美な存在だ。それが例え、唾液であったとしても。間接的な接触であったとしても。
「美味しい」
ガトーショコラを咀嚼して飲み込み、文字通り美味しそうに顔を綻ばせる篠塚は、ありがとう、と俺の目を見て控えめに、照れたように笑った。美味いよな、味が濃いよな、と横で紘が賛同する。どさくさに紛れるようにして、紘のフォークが再びガトーショコラを突く。いい。別にいい。篠塚が食べた部分さえ残してくれれば。俺の左手が、自然と、音もなく、動いた。



