甘美な果実

 紘が普段通りなら、俺も普段通りでいいかと思わされる。味がしないからといって全く食べられないというわけではないが、量は多くない方が苦しくはない。いつも俺が食べているそれは、ちょうどその条件に合っているようで。あまり悩むことなく、ガトーショコラを選んだ。篠塚はイチゴパフェ。

 俺と篠塚に確認してから紘が呼び出しボタンを押し、駆けつけてきてくれた店員に彼の分も含めまとめて注文してくれた。こういう時、仕切って引っ張ってくれるのは大体紘だった。篠塚が輪の中に入ったとしても、大人しい彼がそうなることはほとんどないだろう。俺も複数人を先導するのは得意ではなかった。

 頼んだスイーツを待つ間、何気なく周りを見回した。制服を着た学生グループの中には、見知った顔だったり、見たことがあるような顔だったりがいて。もしかしたら向こう側も、自分たちに気づけば同じようなことを思うかもしれない。でも、わざわざ声をかけに行くほど、声をかけてもらえるほど、その学生たちと親しくはなかった。

「篠塚はいつもイチゴパフェ頼む感じ?」

「うん。他の頼んでみようかと思ったんだけど、やっぱりイチゴパフェがいいなって」

「一緒一緒。俺は大体いつもパンケーキなんだよ。ちなみに瞬はいつもガトーショコラ」

「あ、そうなんだ。二人のこと、また一つ知れて嬉しい。パンケーキもガトーショコラも、美味しいよね」

「美味いよな。一口交換でもしねぇ?」

「交換……」

 紘と篠塚の会話を聞き流しながら、興味などないはずの人間観察に勤しんでいると、どこか異質な雰囲気を放つ人物に目が留まった。自分たちの席の対角線上にいる学生グループの席から、机一つ分を空けた隣に一人で座っている男。全身重たそうな黒い服に、同じく重たそうな真っ黒な髪。その黒い姿に、既視感のようなものを覚えた。