甘美な果実

 この世には、フォークと呼ばれる人間と、ケーキと呼ばれる人間がいる。普通の人間よりも割合は低いが、フォークとケーキは確実に存在していた。

 何らかの理由で味覚を失った人間をフォーク。そんなフォークが唯一美味しく食べられる人間をケーキ。フォークは後天性で、ケーキは先天性だった。尚、ケーキは自分がケーキであるという自覚がない。

 普通の人間がフォークになってしまう原因は人の数だけあると言われているが、その多くは恋愛だった。誰かを好きになった後や誰かに好きになられた後に、味覚を失っているフォークが多くいたのだ。フォークについて研究している機関がそう発表したが、そうなる理屈までは解明されていない。

 好きになった相手がケーキだった。好きになられた相手がケーキだった。ケーキだと知らずに恋をして、恋をされて、フォークになった人間は、味覚を失ったことに困惑し、ケーキの人間を見ると食べたい衝動に駆られることに戸惑い、不自由な生活を送るようになってしまうが、ケーキの人と恋仲になることができれば、恋人同士がするような肌の触れ合いで十分に食欲は満たされる。それが一般的で、それが理想的だった。

 大抵のフォークは、各々時間はかかるものの、味覚を失ってしまった自分と上手く付き合えるようになる。例えパートナーがいなくとも、無事に生活できるようになる人はいるのだ。

 でも、やはり、そこは裏のある人間だ。そうじゃないフォークも少なからずいる。飢えたフォークがケーキに襲いかかる事件も発生している上に、ケーキを本当に喰い殺したり、殺してから喰ったりする残忍な事件も発生しているのだ。それが今、問題になっている。

 ケーキを前に理性を失くしてしまったフォークが、我を忘れて犯行に及んでしまうケースがほとんどではあるが、中にはその真逆、終始理性的で計画的なフォークもいた。