「……ケーキを喰い殺す羽目にならないように、俺も努力はする。でも、もしもの時は、任せた」

「任せろ」

 迷いのない返答が、濁りのない双眼が、心強く感じた。いつでも前向きで、底抜けに明るい紘になら、背中を預けられる。そう思わせてくれる声音で、表情で、言動だった。

 俺が密かに抱えている重荷を払うように、紘は俺の両肩を半ば乱暴に叩き、よし、と満足気に頷いた。何がよしだ、扱いが雑だ、そう思いながら、痛いだろ、加減なく掴むし叩くし、肩壊れる、と反応を示せば、目の前の紘は嬉しそうに破顔した。いいね、瞬だ、それが瞬だ、俺の好きな瞬だ。紘からの好きは気持ち悪い。はは、酷すぎ。

 心なしか、強く叩かれた肩は軽くなっていて。徐々に普段の調子を取り戻していくのを実感した。心配されるのも、心配させるのも、自分たちには似つかわしくない。言動から何から、遠慮しない関係が、やはり落ち着くのだった。

「瞬の残飯食いに行くから、ほら、今度こそ教室行くぞ」

「残飯……」

「残飯だろ。そこ引っかかんなよ」

 早く、もうマジで昼休み終わっちまう。瞬がうだうだぐだぐだしてるせいで。時間がねぇよ。すぐに立ち上がり、俺を見下ろす紘に急かされながら、俺も腰を持ち上げた。自力で持ち上げられた。軽い。重たくない。それまで鉛のように重たかったはずなのに、今は随分と軽くなっていることに少しばかり驚いてしまった。紘の力任せな肩叩きが本当に効いたのだろうかと思ったが、それは思うだけに留めておいた。言えば調子に乗るのが目に見えている。

 先陣を切って階段を下りる紘の背中を暫し眺めた。彼の足取りは軽やかだ。リズムよく下りていく。あっという間に距離が開いていく。

 俺を振り向かない紘を見ていると、彼も俺を信頼してくれているのだろうかと都合よく考えてしまった。実際そうであることを密かに願いながら、座ったことで制服についた埃を手で払い除けて。俺は先を行く紘の後を追った。