甘美な果実

「篠塚のこと気にしてんの? 篠塚がいるから迷ってんの? もしそうなら、瞬が篠塚を拒絶したのは、篠塚がケーキで、篠塚を喰いたくなったからなんだろ」

 いきなり核心を突かれ、喉が詰まった。ぐうの音も出なかった。図星で、反論の余地もなく、全てその通りであったからだった。

 顔を上げられない。あっという間に俺を見下ろす立場となった紘の顔を見られない。俺を追い詰めているわけではないだろうに、受ける側としては追い詰められているような気分に陥ってしまう。

 責められている。紘に、責められている。心が曇っていく。陰っていく。紘は俺を責めている。マイナスな思考に支配されそうになったが、違う、と心の中で首を左右に振った。紘は俺を責めているわけではない。彼なりに、俺のことをどうにかしようとしてくれているだけだ。

「……瞬のそれは、どういう類のもの? ケーキとするキスやセックスで満たされるもの?」

 答えないのを肯定と捉えた紘は、言葉を選ばず、ストレートに問うてきたが、その声からは真剣さが伝わってきたため、挑発しているわけでも、揶揄しているわけでもないことは明白だった。俺も真面目に答えなければならないと思わされた。打ち明けるなら、今しかないと思った。

 呼吸が震える。心臓が震える。もう一人では無理だ。抱えきれない。完全に壊れてしまう前に手を打たなければ、修復ができなくなる。直せる手があるのなら、躊躇わずにその手を使うべきだ。俺は意を決して、息を、吸った。

「ケーキの人と、キスもセックスもしたことない、けど、多分、俺の場合……、そんなものでは満たされない」

 俺は篠塚を、性的な意味で喰いたくなって拒絶したわけじゃない。その逆。血肉を貪りたくなったから、拒絶した。俺は、世間から忌避される側のフォークなんだよ。平然を装うつもりだったのに、言いながら、自嘲や諦観が混じったような声色に、そういった態度にすらなってしまったことに、気が重くなった。陰気臭く、俺の周りの空気がどんよりとしているよう。