嘘だ。よく飴をくれる友達を持っている身としては、それを試す機会はたくさんあったし、実際に試したことだってある。だから、飴で試したことがないなど嘘だ。
味覚を失ったのは今年に入ってからだが、その間に紘からは何度か飴を餌付けされている。個包装を見て何味か確認し、その味を思い浮かべながら舐めたが、結果は言うまでもない。
それでも、嘘を吐いてまで紘から飴を受け取ろうとしてしまったのは、どこかでまだ、信じられない思いがあるからかもしれない。
死んだ味覚が復活しているかもしれない。そんな僅かな希望を捨て切れない。手放せない。死んだらもう生き返ることなどないのに。
「それ、頂戴」
「ん、いいよ。これはめちゃくちゃイチゴ味」
「そろそろしつこい」
突っ込みながら手のひらを紘に向け、そこに飴を置いてもらう。個包装にはイチゴのイラスト。これは確実にイチゴ味だ。
イチゴ味。イチゴ味。これまでに食べてきたイチゴの味を想像し、包装を破いて丸い塊を口に放り込む。隣で紘も、飴を口に入れていた。オレンジ味のようだ。
しばらく黙って舐めていた。途中でガリッと音がした。自分の口からだった。驚いた。早々に噛み砕いてしまったようだ。味を求めるように、無意識のうちにそうしてしまっていたようだ。
不思議と顎の力が強くなっているような気がする。ガリ。ガリ。飴が砕ける。でも、それだけ。味がしない。噛んでも噛んでも味がしない。イチゴ味。イチゴ味。これはイチゴ味。そのはずなのに。ガリ。ガリ。これは何の味だろうか。ああ、そうか。これは不良品か。不良品だ。味がしない飴なんて不良品でしかない。砕いた飴を飲み込む。違う。不良品なのは自分の舌だ。
紘を一瞥する。味がしない、おかしい、というような表情は一切していない。紘の味覚は死んでいないのだ。生きているのだ。飴を飴として舐めることができているのだ。俺は何を噛み砕き、何を飲み込んだのだろう。
味覚を失ったのは今年に入ってからだが、その間に紘からは何度か飴を餌付けされている。個包装を見て何味か確認し、その味を思い浮かべながら舐めたが、結果は言うまでもない。
それでも、嘘を吐いてまで紘から飴を受け取ろうとしてしまったのは、どこかでまだ、信じられない思いがあるからかもしれない。
死んだ味覚が復活しているかもしれない。そんな僅かな希望を捨て切れない。手放せない。死んだらもう生き返ることなどないのに。
「それ、頂戴」
「ん、いいよ。これはめちゃくちゃイチゴ味」
「そろそろしつこい」
突っ込みながら手のひらを紘に向け、そこに飴を置いてもらう。個包装にはイチゴのイラスト。これは確実にイチゴ味だ。
イチゴ味。イチゴ味。これまでに食べてきたイチゴの味を想像し、包装を破いて丸い塊を口に放り込む。隣で紘も、飴を口に入れていた。オレンジ味のようだ。
しばらく黙って舐めていた。途中でガリッと音がした。自分の口からだった。驚いた。早々に噛み砕いてしまったようだ。味を求めるように、無意識のうちにそうしてしまっていたようだ。
不思議と顎の力が強くなっているような気がする。ガリ。ガリ。飴が砕ける。でも、それだけ。味がしない。噛んでも噛んでも味がしない。イチゴ味。イチゴ味。これはイチゴ味。そのはずなのに。ガリ。ガリ。これは何の味だろうか。ああ、そうか。これは不良品か。不良品だ。味がしない飴なんて不良品でしかない。砕いた飴を飲み込む。違う。不良品なのは自分の舌だ。
紘を一瞥する。味がしない、おかしい、というような表情は一切していない。紘の味覚は死んでいないのだ。生きているのだ。飴を飴として舐めることができているのだ。俺は何を噛み砕き、何を飲み込んだのだろう。



