俺が普通の人間とは違うフォークになってしまったとしても、もしかしたらいつか、警察のお世話になっている他のフォークのように、我を忘れて罪を犯してしまう恐れがあったとしても、何も変わることのない紘に感謝の念が湧き上がる。

 俺を親友だと言ってくれる紘を裏切りたくはない。誰のことも傷つけたくはない。同じフォークでも、俺は、一家を殺害してケーキを喰うような犯罪者とは違う。

 にこにこと未だ楽しそうな紘が、程なくして辿り着いた自分の家の前で足を止め、ほとんど同じくらいの背丈である俺に目を向けた。言わずもがな、紘の目は死んでなどいない。死んだ目を見たことがない。

「話はここまで」

「ああ、うん」

「篠塚と上手くやれよ」

「上手く?」

「そうそう、上手くやってくれたら俺が楽しいから」

「なんで紘が楽しいんだよ」

「他人の恋、それも親友の恋は、超エンタメじゃん?」

「エンタメに落とし込むなよ」

「応援してるからな」

「話聞いてる?」

「篠塚は良い子だよ」

「それは聞いた覚えがある」

「まぁ、そういうことだから、またな」

 紘は俺の肩を親しみを込めてポンと叩き、気をつけて帰ってな、と別れる時になぜかいつも言ってくれる言葉を口にして、ひらひらと手を振りながら玄関へ向かって歩みを進めた。

 楽しいと言いつつも、紘は、家の前でいつまでも談笑することはなかった。それは今日に限った話ではない。案外別れ際はあっさりしているが、これくらいの距離感が俺にはちょうどよかった。

 玄関に吸い込まれていく紘を少しばかり眺めて、そして、俺の唯一の親友である彼のその背中に、また、と声をかけた後、止まっていた足を進めた。

 隣に陽気な人がいなくなったことに多少なりとも物寂しさを覚えながらも、ここからまだ少し奥まった場所にある自宅を目指し、俺は一人、静かに帰路に着いたのだった。