甘美な果実

 俺は鈍感だから、何か聞こえたとしても心には響かない。罅はつかない。俺は何も聞いていない。性格が暗いだの口が悪いだの嗜虐的だの表情筋が終わっているだのそんな俺のどこがいいのかだの、何も聞いていない。何も。

 んん、と咳払いをして気持ちを切り替え、確かに、よく赤面してたかもしれない、と短く返答しながら、篠塚の俺への態度とその時の表情を思い起こした。

 目が合ってすぐに逸らされた後、時折見えたその横顔は赤くなっていた。事故で接触があった時も、湯気が出そうなほど真っ赤になっていた。あの顔を俺は、避けている、怯えている、と読み取り、いや、そう思い込むことで、彼の露呈した好意から目を背けていたのかもしれない。避けたり怯えたりするのなら、赤面よりも青褪める方がきっと正しい。

 紘に指摘されて見方を変えてみれば、俺を認識した時の篠塚の顔は、青ではなく確実に赤のように思える。紘の言葉に信憑性が増した。増してしまった。

 篠塚は俺のことが。本当に。まさか。篠塚に対して、俺は特段良いことも、無論悪いこともした記憶がないのに。それなのになぜ、好きになられるのか。自虐しているわけではないが、俺のどこにそんな要素があるのか疑問だった。

 何本も、命中しなくとも何本も、言葉という名の鋭い槍をぶっ飛ばして来た紘曰く、俺の良いところは顔だけ。顔は、無駄に良いらしい。他は、あまり褒められたものではないらしい。

 紘がやけに滑らかに口にした、何も聞いていないことにしている俺の特徴を示す言葉たちも、あながち間違いではない。そう考えると、なるほど、つまりは顔か。篠塚が、好きなのは。俺の、顔だ。

「篠塚は、俺の顔が好きなだけ」

「いきなり何を言い出すのかと思ったら。篠塚に限ってそれはねぇって」