甘美な果実

「瞬、あのさ、分かったかもしんねぇわ」

 口の中を空にしてすぐに、俺に顔を向けながら喉を震わせた紘の視線と、黙って紘の様子を窺っていた俺の視線とがばっちりと重なり、紘が驚いたようにハッとなった。そのリアクションから、俺に見られていたとは思わなかったらしい。

 俺と紘の身長は同じくらいだ。見上げるでも見下げるでもなく、ほぼ同じ目線で数秒間瞳を合わせ、それから、どちらからともなく前を向いた。余所見をしたまま歩き続けるのは危険だ。

「何だよ瞬、俺のこと見つめてさ。俺のかっこよさに見惚れてたのかよ」

「そんなわけないだろ」

「即答かよ。なんか傷つくわ。もうちょっと悩んでくれてもよくね?」

「悩んでも期待には応えられない」

「もうさ、本当に、ツンツンツンツン棘ばっかだな」

 あちこちに刺さって刺さってチクチクするわ。紘はわざとらしく腕を摩り、胸を押さえ、ここもズキズキする、と言葉とは裏腹に、それほど痛みなど感じていなさそうな声で付け加えた。

 ツンツン。チクチク。ズキズキ。可愛くねぇわ、マジで可愛くねぇわ、あー可愛くねぇ。俺に可愛さを求められても困る。ツンツンツンツン、俺にもそのツンを分けてくれたっていいんだよ。ツンはシェアできるものじゃないし、俺はツンツンしてないだろ。いや現在進行形でツンツンしてんだわ。

 ほぼ間を置かず、即座に返ってくる言葉に狂っていた調子が元に戻ってくるのを感じた。紘とはやはり、こういう馬鹿みたいな中身のない、どうでもいいような会話をするのが一番落ち着くのだと知る。

 次の日には忘れているような雑談が、その時には凄く色のあるものに見えるのだから不思議だった。その時間が嫌いなら、口数の多い紘とわざわざ一緒にいようなどと思わない。