甘美な果実

 彼に何かしたつもりはないが、俺が、どちらかと言えば不良であることが十分な理由になっているのだろう、明らかに怯え、避けている彼が、俺に好意を抱いているはずがない。だから、彼が原因ではないと俺は思っている。

 俺とは違う、優等生の彼を選択肢から外す。そうすると、俺の知り得る限りだが、ケーキの可能性のある人がゼロになってしまう。母数を減らすためにと咄嗟に思いついた案だったが、その母数がゼロになってしまっては元も子もなかった。結局振り出しに戻ってしまう。

 弾いたはずの大量の選択肢がブーメランのように舞い戻ってくる感覚に陥った。捌いても捌いても、どうにもこうにも捌き切れない。

 恋愛を除外すれば、フォークになる理由やきっかけなど人の数だけあるのだ。その限りない数の中から、これだというのを探すのは骨が折れる作業ではないか。

 そこまでして、俺は自分がこうなった原因を突き詰めようとは思わなかった。それが知れたところで、俺の味覚が生き返るわけではないのだから。

 時間を割いて究明することにこれといった意味を見出せない。分かったら分かったでそれでいいし、分からないなら分からないでそれでいい。躍起になって調査するほどのことでもないだろう。

「真剣に向き合ってくれるのはありがたいけど、考察とかは別にしなくていい。そんなことしても、元に戻るわけじゃないだろ」

 何が何でも知りたいとかは全然思ってないから、理由が謎のままでも俺は気にしない。決して自分のことではないのに、いろいろと考えてくれる紘には温かい心があると感じた。それに対して、これは自分のことなのに、そうなってしまったのだから仕方がないで済ませ、悪く言えばどうでもいいと思ってしまう俺にはどこか、冷めた気持ちがあるように感じた。そんな俺に協力したところで、紘には何のメリットもないだろう。