鉛のように重たい腰を持ち上げる。ふらふらした。くらくらした。嘔吐きそうになった。心臓が、囂しいほどに大きく脈打っていた。痛かった。苦しかった。倒れそうだった。
電気をつけていないため、足元に注意しながら部屋の扉を目指し、取っ手を探って。ゆっくりと開けた。流れ込んでくる空気がやけに冷えていた。敏感になっている嗅覚が、何かの匂いを捕らえた。甘くて美味しそうな匂いだった。どこかで嗅いだことのある匂いだった。味わったことすらありそうな匂いだった。
息が乱れていく。胃液なのか唾液なのか、判別がつかないものが口の中に溜まり、それを何度も飲み込んだ。腹が鳴った。場違いのように、腹が鳴った。食欲を誘発されていた。鼻腔を擽る匂いが、ケーキのものであることを、俺は薄らと認識し始めていた。篠塚、だろうか。篠塚が来たのだろうか。俺に喰われたいがために。俺に喰われるために。篠塚が。
口元を拭う。篠塚に会ったら噛みついてしまうと予想できているのに、俺の足はその匂いに引き寄せられるように進んでいた。廊下から階段へ。
一段一段下りていると、玄関の方から、床か壁か分からないが、何かがどこかにぶつかるような鈍く重たい音が聞こえた。思わず肩が揺れる。心臓が跳ねる。ごくりと唾を飲む。更に息が荒くなる。
それなりに重量感のあるものが落ちたようなその音は、とてもじゃないが、良い音には聞こえなかった。治安の悪い音だった。その間、聞こえてもいいはずの人の声は、何一つ聞こえなかった。
気づけば、一階の廊下を歩いていた足音が、消えていた。静かになっていた。玄関からはやはり、誰の声もしない。それに違和感を覚えた。不気味さを感じた。訪問者と会話をするその声が、一切耳に入ってこないなんて。そんなことがあるのだろうか。
電気をつけていないため、足元に注意しながら部屋の扉を目指し、取っ手を探って。ゆっくりと開けた。流れ込んでくる空気がやけに冷えていた。敏感になっている嗅覚が、何かの匂いを捕らえた。甘くて美味しそうな匂いだった。どこかで嗅いだことのある匂いだった。味わったことすらありそうな匂いだった。
息が乱れていく。胃液なのか唾液なのか、判別がつかないものが口の中に溜まり、それを何度も飲み込んだ。腹が鳴った。場違いのように、腹が鳴った。食欲を誘発されていた。鼻腔を擽る匂いが、ケーキのものであることを、俺は薄らと認識し始めていた。篠塚、だろうか。篠塚が来たのだろうか。俺に喰われたいがために。俺に喰われるために。篠塚が。
口元を拭う。篠塚に会ったら噛みついてしまうと予想できているのに、俺の足はその匂いに引き寄せられるように進んでいた。廊下から階段へ。
一段一段下りていると、玄関の方から、床か壁か分からないが、何かがどこかにぶつかるような鈍く重たい音が聞こえた。思わず肩が揺れる。心臓が跳ねる。ごくりと唾を飲む。更に息が荒くなる。
それなりに重量感のあるものが落ちたようなその音は、とてもじゃないが、良い音には聞こえなかった。治安の悪い音だった。その間、聞こえてもいいはずの人の声は、何一つ聞こえなかった。
気づけば、一階の廊下を歩いていた足音が、消えていた。静かになっていた。玄関からはやはり、誰の声もしない。それに違和感を覚えた。不気味さを感じた。訪問者と会話をするその声が、一切耳に入ってこないなんて。そんなことがあるのだろうか。



