甘美な果実

 ようやっと返した言葉は、ケーキの彼を庇うような、しかし、その彼に好意を抱かれている可能性から目を背けるような、そんな曖昧な言葉になってしまった。

 飴を舌で転がして溶かす紘は俺を一瞥し、なんだ、その人じゃん、とこちらは言い切れないと言っているにも拘わらず、うんうんと頷きながらそうだと自信満々に断言した。絶対そう、俺の勘がそうだって言ってる、その物好きなケーキが瞬に春を訪れさせたんだよ。

 どこからそんな自信が湧いてくるのか甚だ疑問だったが、絶対までつけて肯定されるとそんな気がしてきてしまうのだから恐ろしい。確定に踏み切れない理由が俺の中にはちゃんとあるのに、それを根本から覆されそうになる。

「絶対なんか使って勝手に決めるなよ。違ってたら相手に悪いだろ」

「じゃあさ、誰か教えて、……っていうのはあんまりよくねぇかな。でも、誰かさえ分かれば、俺ももう少し根拠を示して考察できると思う」

 勘だと言った手前、根拠がないことは自覚しているらしい。絶対という強い言葉の力で、そうなのか、と多少なりとも思いつつ、それは紘の勘だから、と首を振って不確かな事実を追い払っている中、勘ではなく明確な根拠を示されて再度肯定されてしまったら、きっと俺はそれ以上口論できずにぐだぐだと言い訳ばかりを述べてしまう羽目になるだろう。誰かに好かれているかもしれないことに、しかもそれが同性であるかもしれないことに、正直俺は、表情には出さずとも動揺してしまっているのだ。馬鹿にされるだろうから、紘には言わないが。

 俺よりも断然顔が広い紘に、誰がケーキなのか伝えてしまったら、その人物像を鑑みた紘の推論を発表されてしまうかもしれない。彼と紘が話していることはあまり見たことがないが、紘は誰とでもすぐに打ち解け合えるくらいコミュニケーション能力が高く、おまけに笑顔も多くて親しみやすいタイプだ。俺の知らないところで彼と話す仲になっていても何もおかしくはない。