学校に行くことができなくなっていた。篠塚に会うことができなくなっていた。彼に会うことが怖くなっていた。喰いたくて、喰いたくて、喰い殺したいと思っているからこそ、実際にそうしかけてしまったからこそ、対面するのが恐ろしくなっていた。

 篠塚に煽られるまま我を忘れて暴走し、唇を喰んで唾液を飲み、首の肉を噛み千切ってしまった事実が、日が経ってからもずっと頭にこびりついて離れない。何度も夢なんじゃないかと現実逃避をしたが、思い出してしまう度に息が苦しくなってしまう。その身体の反応が、夢なんかではないと訴えているかのようで。俺の意思に反して、変わらず食欲は酷くなるばかりだった。篠塚の血肉をまた、咀嚼したくてたまらない。

 俺に噛まれ、喰われ、首からの出血で気を失った篠塚は、あの後、紘が呼んだ救急車で病院に搬送されたようだった。命に別状はなかった。治療を受け、数週間の入院を経ると、すぐ学校に復帰したらしい。紘からの情報だった。俺と違って、篠塚はちゃんと通えているようだ。喰われた篠塚よりも喰った俺の方が、メンタル面で弱っていることに、自嘲の笑いを浮かべてしまいそうになった。

 フォークに喰われた篠塚は、心配されるか、同情されるかしているに違いない。喰ったフォークが俺だということも、不特定多数に知れ渡っているだろう。普通ではない、ケーキを本当に喰わないと満たされない少数派のフォークであることが、最悪な形で露見してしまった。そのこともまた、俺の気を重くさせていた。殺人鬼だと疑われたその日の出来事だ。余計にクラスメートを刺激する結果となってしまった。あの空間で平然と息をすることなど、できる気がしない。本物の殺人鬼が捕まっていればまた違っていたのかもしれないが、未だその凶悪犯は野放しのままだった。