甘美な果実

 唾液を飲むように篠塚の口内を貪り、一頻り堪能した後で、僅かに唇を離した。俺のものなのか、篠塚のものなのか、どちらのものなのか定かではない唾液が糸を引く。唇を舐めた。味がした。篠塚の唇も濡れていた。舌先で舐めた。味がした。熱い息が漏れた。これだけでは、足りない。もっと、もっと、欲しい。

 必死に息をしようとしている篠塚に構うことなく、俺は再び唇を奪った。本当に奪うようにして、ガリ、と噛んだ。飴を噛むように、歯で唇を切った。痛みに呻く篠塚の声すら喰うように、滲み出る血液を舐め取る。呼吸を乱す篠塚の口腔に再度舌を入れ、唾液と一緒に血液を飲んでとことん味わった。それは、唾液よりも濃い味がした。堪らない。堪らなく、美味だった。血液が、もっと欲しくなった。

 唾液の次は、血液を飲みたい。そのためだけに、舌を引っ込める篠塚のそれを自身の舌で絡め取り、誘い出した後に噛み千切ろうと試みたが、上手くいかなかった。それでも、傷をつけることはできたらしく、そこから顔を出す血の存在を、薄くなりかけていたその味が濃くなったことで察知した。

 唇と舌の痛みに堪えるような声にならない声が篠塚の口から漏れ出ていたが、そんなことなど意に介さずに、俺は篠塚を貪り続けた。喰えればそれで満足だ。悪いのは全部篠塚だ。ケーキの血液は極上の飲み物だ。

 血を飲み、涎を飲み、絡まっていた舌を離し、荒い呼吸を重ね合わせる。俺が噛んだ唇や舌から少量の血を流す篠塚が、反射の如くこくりと唾を飲む。喉が控えめに波打つのを目の当たりにして、なぜか震えそうなほどにゾクゾクした。暴走に、拍車がかかるようだった。

 喉だ。首だ。噛みつきたい。今度はそこだ。噛み千切りたい。唇や舌とは、また違った味を楽しめるかもしれない。胸が跳ねるほどの高揚感に、口角が持ち上がりそうになった。血肉を。血肉を喰える。ずっと喰いたかったものを、ようやく、喰える。このケーキは、俺が喰い尽くす。