「ごめん、渕野くん。大人しく、帰れなかった……。俺のせいで苦しんでる渕野くんを、置いて帰ることなんて、できない……」
だから、戻ってきてしまったのだと言わんばかりの篠塚に向かって、俺は左手を伸ばした。正気を保てなくなっている俺を置いて帰れずに引き返してきたというのなら、それは喰われにきたのと同義だ。再び逃がそうとする理由など、逃がす理由など、ない。檻の中に堂々と侵入してきたのは、そっちだ。俺を煽って衝動を起こさせたのも、そっちだ。悪いのは、篠塚だ。これは、篠塚の、せいだ。
左手で、篠塚の右手を、右手首を、掴んだ。それまでに隙はあっただろうに、篠塚は一歩たりとも後ろには引かなかった。拒絶も抵抗も、何も、しなかった。俺の全てを受け入れようとするその両眼が、どことなく濡れたその双眸が、瞬く間に、俺の理性を危うくさせた。
篠塚を強く引き寄せる。彼の片膝がベッドの上に乗る。軋む音に目が覚めることもなく、俺は空いた右手で彼を捕らえるようにして後頭部に触れた。篠塚の左手が、自然な流れで俺の肩の辺りを触る。至近距離で目を合わせ、くらくらするほどの甘い匂いに侵されながら呼吸を絡ませた。その瞬間、頭の中で何かが千切れるような音がした。もう、止まれなかった。
緩く開かれた唇に、堪らず乱暴に噛みついて。躊躇なく舌を差し入れた。念願のケーキの味が、瞬時に口腔を満たしていく。高揚する。興奮する。初めて味わう間接的ではないそれに、あまりにも甘美なそれに、苦しげに喘ぐ篠塚のことなどどうでもよくなってしまうほどに夢中になった。篠塚が口をつけた後のガトーショコラの比ではない。本物は、至高だ。誰にもあげたくない。これは全部、俺のものだ。
だから、戻ってきてしまったのだと言わんばかりの篠塚に向かって、俺は左手を伸ばした。正気を保てなくなっている俺を置いて帰れずに引き返してきたというのなら、それは喰われにきたのと同義だ。再び逃がそうとする理由など、逃がす理由など、ない。檻の中に堂々と侵入してきたのは、そっちだ。俺を煽って衝動を起こさせたのも、そっちだ。悪いのは、篠塚だ。これは、篠塚の、せいだ。
左手で、篠塚の右手を、右手首を、掴んだ。それまでに隙はあっただろうに、篠塚は一歩たりとも後ろには引かなかった。拒絶も抵抗も、何も、しなかった。俺の全てを受け入れようとするその両眼が、どことなく濡れたその双眸が、瞬く間に、俺の理性を危うくさせた。
篠塚を強く引き寄せる。彼の片膝がベッドの上に乗る。軋む音に目が覚めることもなく、俺は空いた右手で彼を捕らえるようにして後頭部に触れた。篠塚の左手が、自然な流れで俺の肩の辺りを触る。至近距離で目を合わせ、くらくらするほどの甘い匂いに侵されながら呼吸を絡ませた。その瞬間、頭の中で何かが千切れるような音がした。もう、止まれなかった。
緩く開かれた唇に、堪らず乱暴に噛みついて。躊躇なく舌を差し入れた。念願のケーキの味が、瞬時に口腔を満たしていく。高揚する。興奮する。初めて味わう間接的ではないそれに、あまりにも甘美なそれに、苦しげに喘ぐ篠塚のことなどどうでもよくなってしまうほどに夢中になった。篠塚が口をつけた後のガトーショコラの比ではない。本物は、至高だ。誰にもあげたくない。これは全部、俺のものだ。



