甘美な果実

 カバンの中を弄り、飴を引っ張り出して食べた。ガリ、ガリ、と派手な音が鳴るのも構わずに噛み続け、食べ続ける。一個、二個、三個。全く、足りない。涎が止まらない。

 篠塚は何も言わない。篠塚は何も喋らない。言いたいことがあるのではないのか。さっさと言いたいことを言って、さっさと出て行ってくれればいいのに。いつまでもそこにいて欲しくはない。醜い姿も、醜い音も、見せたくない。聞かせたくない。今の俺は、篠塚が知っているような人ではないのだから。

 気を失ってしまいたい。意識が飛ぶことで強制的に自分を抑圧できるのなら、喜んで気絶したい。それで篠塚の安全を確保できる。一時的であっても、今この時の難を逃れられる。篠塚が俺に殺されることも、俺が篠塚を殺すことも、なくなる。俺のこれは、篠塚を殺すものだ。俺自身が、凶器だ。その凶器が、飴を壊し続けた。篠塚が、静かに声を落とした。

「渕野くん、苦しいなら、我慢しなくていいよ。俺のこと、食べていいよ。その飴みたいに、噛み砕いていいよ。俺が、渕野くんを……、俺が、自分がケーキだと知らずに、渕野くんを好きになったことで、渕野くんがフォークになったなら、その責任は、俺に取らせてほしい」

 ごめん、違っていたら、俺の自意識過剰だったら、ごめん。でも、一緒にスイーツを食べた日に、確信のようなものを得たから。目の色を変えた渕野くんが俺に手を伸ばしてきた時、今まで感じたことのない種類の恐怖に襲われた。食べられそうって本気で思った。それがケーキの本能なのだとしたら、そういうことだよね。必然的に、渕野くんがフォークであることにも繋がる。俺を拒絶したのも、俺を避け続けるのも、今も渕野くんが俺の前に顔を出さないのも、フォークとケーキの関係だからだと考えれば、全ての辻褄が合うんだよ。もし、俺の推論が当たっているなら、いつでも、食べていいから。