まあ、こんな恥ずかしいこと、本人に直接は言えないよね。
 だから秘密にさせてもらった。
 私がクリムのアトリエに残った理由は以上となる。
 あっ、いや、あともう一つだけあったか。

「……」

 私はこっそりとクリムの横顔を窺う。
 こっちの理由は、ますます本人には言いづらいこと。
 心の声で語るのも憚られるくらい恥ずかしい。
 せっかくこうして仲直り、というか、長年のわだかまりを解消できたんだから、もう少しだけ一緒にいたいと思ってしまったのだ。
 お母さんのためという、同じ目的を持っていることもわかったし、前以上に仲良くできる可能性もあると思ったから。
 いわばこれは、絶縁していたせいで失われてしまった時間のやり直しだ。

「んっ、何?」

「えっ!? いや、別に……」

 横目に窺っていたことを悟られて、私は咄嗟に目を逸らす。
 そしてそれを誤魔化すように慌てながら返した。

「と、とにかくまあ、しばらくはクリムのアトリエでお手伝いしてあげるよ。そんなに急いでるわけでもないし、たった一年待つくらい今さらどうってことないしさ」

「ショコラがそう決めたならそれでいいと思うよ」

「それにほら、私の傷薬と武器を求めてる王国騎士さんたちもたくさんいることだし、私がいなくなったら困るでしょ」

「まだ僕の方が錬成技術は上なんだから、あんまり調子に乗らないこと」

「……はーい」

 と、そんな形で私は、引き続きクリムのアトリエで手伝いをすることになった。

「そういうわけだから、もうしばらくここでお世話になるね、クリム」

「こちらこそよろしく頼むよ、ショコラ」

 ここからが本当の、錬成師ショコラの始まりの物語だと言えるだろう。



 ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました おわり