『素材集めもまともにできない無能はここから出て行け』
当時の嫌な記憶が脳裏をよぎる。
およそ一ヶ月前にババロアから告げられた一言。
過酷な労働を強いられた結果、過労によって倒れてしまい、私は無能のレッテルを貼られた。
そしてアトリエを追い出されて、破門された悪評が広まってどこのアトリエも引き取ってくれなくなってしまったのである。
その元凶であるババロアが、私に声を掛けてきた。
なんで今さらババロアが私の前に現れたのだろう?
それにさっき、『やっと見つけた』って言っていた。
私のことを探していたような口ぶりに、なおさら疑念が強まる。
「な、何の用、でしょうか……」
いまだに罵詈雑言を受けていた時のトラウマがあって、私は自ずと声を震わせる。
それでもなんとか言葉を絞り出すと、ババロアは耳を疑う台詞を返してきた。
「ショコラ、俺のアトリエに戻って来い……!」
「……はっ?」
アトリエに、戻って来い?
この男は、いったい何を言っているのだ?
自分からアトリエを追い出したくせに。
「な、なんで今さら、そんなこと……」
「お前、俺に力を隠していたな……!」
「えっ?」
ババロアはそう言って、自分の懐に手を入れる。
そこから黒い“何か”を取り出すと、前に突き出して私に見せつけてきた。
私は思わず息を詰まらせる。
黒くて湾曲した、動物の角。
それは、炎鹿の黒角だった。
「そ、それって……」
「お前が採取して来た素材だ。これには規格外の性質が宿されてる。この力のことを、お前は今まで黙っていたんだな……!」
ババロアは憤慨した様子で鼻息を荒くしている。
どうやら私が持っている称号の力に気が付いたらしい。
となれば、ババロアが私のことを探していたのも大方の予想がつく。
私を追い出して以降、ババロアのアトリエの名前はあまり聞かなくなっていた。
おそらく私が採取した素材を使えなくなり、ババロアの錬成物の質が大幅に低下したのだろう。
それが原因で客足が遠のき、今になって私の力に気が付いたババロアが、必死になって私のことを探していたのだ。
また素材採取係として、アトリエに連れ戻すために。