なかなかにいい考えかと思ったけれど、これまたクリムに呆れられてしまった。

「錬成術によって最良の錬成物を一万種以上生み出した者」

「へっ?」

「【至高の錬成師】の称号の取得条件だよ。『錬成術によって最良の錬成物を一万種以上生み出した者』」

「い、一万種!?」

 生涯、凄腕の錬成師が手掛けるとされている錬成物の種類が一万種と言われている。
 素材集めに時間が掛かるのはもちろん、錬成物それぞれの理解を深めて錬成術を磨かなければならず、一万種の錬成を成功させるのは一生をかけても不可能と言う者も多いほどだ。
 だというのに、それをすべて最良の状態で仕上げた?

「それができる自信があれば、試してみてもいいんじゃないかな。少なくとも僕は錬成術に打ち込んで丸々七年は掛かったけど」

「た、たった七年で、一万種の錬成物を……?」

 とても真似できるものではないと思ってしまった。
 一万種の錬成物を生み出すだけでも苦行だろうに、それをたった七年でなんて。
 幼い頃から、がむしゃらに素材を集めて、組み合わせを考えて、ひたすらに錬成術を試していた証拠。
 並の熱意では成し遂げられないことだ。
 これは素直に尊敬の念が湧いてくる。
 そうだよね、よく考えたら今目の前にいるのは、齢十五で王国騎士に力を認められて宮廷入りを果たした天才錬成師なんだよね。
 そんな人物と簡単に肩を並べられるとか、同じ力を手に入れようとか考える方が間違っていたのだ。
 本物の才能というものを、私は今一度痛感させられた。

「ていうかクリム、“趣味”で始めたって言ってたのに、そこまで錬成術に打ち込めるなんてすごいね。本当に錬成術好きなんだ」

「……」

 なんとなしにそう言ってみると、クリムはなぜか気まずそうにこちらから目を逸らしてしまった。

「…………趣味でここまでやるわけないだろ」

「えっ?」

「いや、なんでもない」

 何か言ったような気がしたけれど、クリムはそれ以上何も答えることなく作業机の方に戻って行った。
 私も私で、大切な仕事が残っていたのだと思い出し、すぐに傷薬の錬成に取り掛かることにした。