そして神殿を出ると、近くのベンチに腰掛けて、一度落ち着いてから話を再開させる。

「にしても、どうして今まで誰も気付かなかったんだよ。普通、超性能の錬成物が出来上がったら、何かあると思って素材とか確かめたりするだろ」

「錬成は基本的にババロアが担当してたから。他の職人さんたちは品評会に向けての修行をしてたし、徒弟とか私は雑用係だったし……」

「まあ、外から採取して来た素材を、わざわざ魔力消費の激しい鑑定魔法を使って確認まではしないか。見た目は完全に普通の素材だし、状態は見れば一目瞭然だから」

 クリムは手に持った長寿草を揺らす。
 次いで彼は、心の底から呆れたような表情を浮かべて続けた。

「おまけに、とんでもない性質の錬成物が出来上がっても、それを全部自分の腕のおかげだとしか思わない“傲慢な奴”も、いるみたいだしね」

 ババロアへの皮肉が、とても効いていると思った。
 確かにあの傲慢の性格があったから、今日まで私の隠されたスキルについて誰も気が付くことがなかったのだ。
 私自身、そのせいで自分の力にはまるで気付かなかったし。
 私も思わず呆れた気持ちになっていると、クリムは私の心を代弁するように笑みを浮かべた。

「今頃ババロアの奴、錬成物の品質がガタ落ちして焦ってるんじゃないのかな。ざまぁみろって感じだね」

「……うん」

 その姿を想像し、なんだか少しだけ心が洗われた気がした。
 その後、私はクリムと一緒に彼のアトリエまで向かうことになる。
 ババロアのアトリエではなく、クリムのアトリエに。

 ここから私の、第二の錬成師人生が始まる。