「……できた」
溶液の粘液を素材にした初歩的な傷薬――『清涼の粘液』。
久々の錬成だったけど、失敗せずに上手くできた。
その嬉しさがじわじわと込み上げてきて、私は思わず綻ぶ。
やっぱり錬成術は楽しい。
昔よくお母さんが目の前で見せてくれた“優しい奇跡”。
これに何度笑顔にしてもらったかわからない。
私はこの錬成術で、お母さんと同じように誰かを笑顔にしてあげたいと思ったんだ。
だからいつか、絶対に自分のアトリエを開きたい。
「特に問題はなさそうですね。きちんと指定の傷薬が調合できております」
試験官の中年騎士さんも合格を出してくれたので、私は続けて残りの二つを作ることにした。
それも問題なく完成させると、三つの傷薬を見た中年騎士さんは、頷きながら柔和な笑みを向けてくれる。
「はい、三つとも問題はありません。一応念のために、最後に“鑑定”の方をさせていただきます」
「お、お願いします」
いまだに少し緊張しながら中年騎士さんにお願いすると、彼は瓶の一つを手に取って唱えた。
「【偽りなき文言――隠された真実を――この手に開示せよ】――【詳細】」
手にした瓶が僅かに光り、直後にその光が文字となって浮かび上がってくる。
鑑定魔法の【詳細】。
触れている無生物の情報を開示する魔法で、名前と簡易的な詳細を確認することができる。
また、素材や錬成物として鑑定した場合は、状態や効果を確かめることもできる。
錬成が上手くいっていれば状態は『最良』『良』『可』のいずれかになっていて、成功と認めてもらえるはずだけど……
「えっ……」
鑑定結果を見た中年騎士さんは、突如として目をぎょっと見開いた。
「ク、クリム様! こちらをご覧ください!」
「んっ?」
慌てた様子でクリムの方に鑑定結果を見せる。
何か問題でもあったのだろうか?
そんな不安になるような反応はしないでほしいんだけど、なんて思っていると……
「はっ!? な、なんだこれ!?」
クリムまで似たような反応を示した。
だからそういう反応やめてほしいんですけど。
「な、なになに……? 私、何か間違ったことでもしちゃった……?」
もしかして試験不合格?
状態が『最悪』にでもなっていたのだろうか。
なんて悪い予感が脳裏をよぎって、冷や汗を滲ませている中、クリムが意外そうな顔をこちらに向けてきた。
「じ、自分で何を作ったのか、わかってないのか……?」
「はいっ?」
言われた通りに、普通に『清涼の粘液』を作ったつもりだけど?
そう首を傾げていると、クリムが鑑定魔法の結果をこちらに見せてくる。
それを確かめた私は、彼らと同じように目を見張ることになった。
◇清涼の粘液
詳細:溶液の粘液を素材にした傷薬
患部に塗ることで治癒効果を発揮する
微かに清涼感のある香りが宿っている
状態:良
性質:治癒効果上昇(S)解毒効果付与(S)継続治癒追加(S)
「な、何これ……?」
なんか、とんでもない『性質』がいっぱい付いてました。

