ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜


 するとそれが災いして、クリムからあらぬ疑いを掛けられた。

「もしかしてこれ、そこらの露店で全部仕入れたんじゃ……」

「私をなんだと思ってんのよ……。そんなことするわけないでしょ。ていうか宮廷錬成師様なら、素材の鮮度でそれくらいわかるでしょ」

 長寿草や雨漏茸はともかく、溶液(スライム)の粘液は瓶詰めしても鮮度がどんどん落ちていくものだから。
 露店で揃えたのだったら、とてもこのような鮮度ではないことは一眼見ればわかるはず。
 ということを冷静になって理解したのか、クリムはようやく納得したように頷いた。

「まあとりあえず、素材採取の方は合格かな。で、今度は集めて来てもらった素材を使って、傷薬を錬成してもらう。さっそくここでやってもらえるか?」

「う、うん」

 こればかりはさすがに緊張してしまう。
 素材採取は嫌というほどやらされてきたので慣れっこだけど、錬成術の方をやるのは随分と久々だから。

(上手く、できるかな……?)

 近くにあったベンチに腰掛けて、空いているスペースに布を敷く。
 その上に束にした長寿草三本と、雨漏茸三本、さらには溶液(スライム)の粘液一体分を置いた。
 基本的に溶液(スライム)の粘液は塗り薬の錬成素材として使われる。
 そのままでも傷の治療に使うことができるほど高い治癒効果を備えている素材だが、しかし相応の副作用もある。
 そのまま使った場合は特殊な粘着成分が原因で、肌に強い刺激を与えてしまうのだ。
 体質いかんでは激しい炎症を起こして、むしろ治療前よりもひどい状態になる可能性が高い。
 ゆえに治癒効果をそのままに、人体に影響を及ぼす成分を他の素材との錬成で取り除く必要があるのだ。
 それに最適だとされている素材が長寿草と雨漏茸である。

「【調和の光――不揃いな異なる存在を――我が前で一つにせよ】――【錬成(アルケミー)】」

 私は錬成用の魔法を使って、三つの素材の調合に取り掛かった。
 敷いた布の下に紫色の魔法陣が展開されて、同時に三つの素材も光を放つ。
 浮かび上がった魔法陣の中にあるものが錬成対象となり、錬成師の想像力によって出来上がりの品質が格段に変わるようになっている。
 だから私は集中し、三つの素材が上手く調和するように想像力を働かせた。

(長寿草の豊富な栄養素が、粘液に含まれている害悪な成分を消し去る。雨漏茸に蓄えられた澄み切った水が、伸ばし用の水となって傷薬をまとめ上げてくれる)

 やがて光が収まると、布の上には粘液が入っていた瓶のみが残されていた。
 しかし中に入っているのは濁った粘液ではなく、透き通るような緑色をした綺麗な“塗り薬”だった。