「よしっ、これで採取おーわり」
三体分の溶液の粘液を瓶に入れ終わった私は、それをリュックに仕舞って出口に向かい始めた。
魔物は倒すと、体の一部だけを残して消滅する。
またまた一説だけど、魔物の死骸を人間側に利用されないように、死んだ魔物の体は邪神が回収していると言われている。
そして人間側についている神様が、僅かにでも有益になる素材を残すために、魔物をその場に留めようとしてくれているみたいだ。
その結果、体の一部だけが現世に残されると言われている。
もちろんどこまでが本当かはわからないけど。
ただそのおかげで、魔物討伐後は面倒な死骸の処理をしなくて済み、私たち素材採取者たちは大いに助かったりしている。
「本当にもう、帰っちゃっていいのかな……?」
早々と素材採取を終えてしまったので、やはりなんだか妙な罪悪感を覚えてしまう。
いや、たぶん、今までが少しおかしかったのだ。
これの十倍近くの素材を、たった一人で集めに行かされて、夜遅くに戻れば何かしらの文句を言われる。
あれが普通だと思ってはいけない。
私はもう、ブラックなアトリエから解放されたのだ。
まったく体が疲れていないことに、やはり多大な違和感を覚えながら、私は幼馴染の待つ王都に向けて走り出した。
素材採取を終えて宮廷の方に戻ると、そこにはクリムともう一人別の人物がいた。
緑色の短髪の中年くらいの騎士さん。
試験官になる騎士さんとはあの人のことだろうか。
そう思いながら城門に近づいて行くと、クリムが私のことに気が付いて互いに目が合った。
なんだか驚いたように目を見張っている。
「も、もう集め終わったの?」
「えっ? う、うん、まあ……」
頷きを返すと、それを見た中年騎士さんがさっそく採取品の確認をしてくれた。
開いたリュックを覗き込み、素材一つ一つを丁寧に見てくれる。
やがてすべての確認を終えると、少し意外そうな顔をクリムの方に向けた。
「た、確かに指定の品が揃っております。長寿草が九本、雨漏茸が九本、溶液の粘液が三体分」
「ず、随分と早かったね。もう少し時間が掛かると思ったけど……」
一応、早めに戻れるように『身体強化魔法』を使って森を行き来したからね。
そのおかげもあって、二人の予想よりもだいぶ早く戻って来られたのだと思う。

