半液体状の薄緑色の生き物。
触れている草木をじわじわと溶かしながら近づいてくるそいつこそ、討伐対象の魔物の『溶液』である。
見ると茂みの中からは他に二体の溶液が出て来て、これで目標数の三体分に届く。
例に漏れず奴らは魔物として、人間である私を襲うべく近づいて来ている。
魔物は邪神が魔界から送り込んでいるとされている人類の天敵と言われている。
そして魔力を宿しており、それを使って種族ごとの超常的な能力を行使してくる。
溶液の場合は体から射出される厄介な溶解液で、まともに食らったらひとたまりもない。
「キュルッ!」
私を射程に捉えた溶液は、体をもごもごと動かして玉のような溶解液を吐き出した。
立て続けに他の二体も液玉を飛ばして来る。
私はそれを危なげなく回避して、奴らに向けて右手を構えた。
「【鋭利な旋風――反逆の魂を――すべて切り裂け】――【風刃】!」
瞬間、右手の平に魔法陣が展開されて、そこから凄まじい旋風が吹き荒れた。
風属性魔法――【風刃】。
その風は溶液の一体だけでなく、近くにいたもう二体をも一斉に巻き込んだ。
溶液の体が引き裂かれる音がいくつも重なり、辺りに半液体状の欠片が飛び散る。
やがてそれが終わると、溶液たちの姿はもうなく、地面には僅かな粘液のみが残されていた。
魔物討伐を何度もやらされていたから、もう随分と魔力の方も上昇したものだ。
魔力は魔物を討伐することで成長していくので、今ではここらの森にいる魔物なら一撃で倒すことができる。
一説によると、天界から下界を見守っている神様が、魔物討伐の功績を祝して魔力を成長させてくれているらしい。
ただ、最近は魔力が上がりすぎたせいで、せっかくの魔物素材もまとめて吹き飛ばしてしまうことがあるけど。
「魔法についてももう少し勉強したいなぁ」
私は落ちている粘液を丁寧に瓶に移しながら、人知れずそうぼやく。
魔力を消費して扱うことができる超常的な現象――『魔法』。
定められた式句を詠唱することで発動が可能になっている。
だからもっと色んな式句を覚えて、採取に役立つような魔法をたくさん習得したいものだ。
これも一説だが、式句詠唱で神様に語りかけて、魔力と引き換えに超常的な現象を引き起こしてもらっているとされている。

