宮廷錬成師の手伝いになるために錬成試験を受けることになり、私はブールの森までやって来た。
指定された錬成物は『清涼の粘液』。溶液の粘液を素材にした傷薬だ。
その素材は三種類。
摂取すれば寿命が伸びると言われているほど栄養たっぷりな薬草――『長寿草』。
逆さ笠に雨水を溜めて特殊なひだと管を通じて柄に綺麗な水を送るきのこ――『雨漏茸』。
そして低級種の魔物である溶液を討伐することで得られる素材――『溶液の粘液』。
それぞれ素材の数は、長寿草と雨漏茸が九本、溶液の粘液が三体分。
傷薬を三つ作るのにぴったりの数となっている。
「本当にこれだけでいいのかな……?」
いつもはこれとは比べ物にならないほどの素材を採りに行かされていたから違和感がすごい。
どの素材もこのブールの森で簡単に採取することができるし、かなり早く採取試験を終わらせられそうだ。
まあ、渡された紙にもそう書いてあるし、指定されたものだけ拾ってさっさと帰ることにしよう。
そう思いながら溶液を探して探索を続けていると……
「あっ、また長寿草」
いつの間にか長寿草と雨漏茸が目標数に到達していた。
あとは溶液の粘液だけ。
もう素材採取が終わってしまいそうで、なんだかやっぱり違和感がすごいな。
森まで素材採取に来て、こんなに疲れないまま帰ってしまっていいのだろうか。
今まで過酷な環境に置かれていたせいで、そんな罪悪感すら湧いてきてしまう。
「あっ、甘露草もあるじゃん。これ、お菓子のいい材料になるんだよねぇ」
時間に余裕があるため、つい関係のないものまで拾って素材採取を楽しんでしまう。
素材採取を楽しいと感じるなんていったいいつぶりだろうか。
そういえば大好きなお菓子作りもあのアトリエに入ってからまったくできてなかったなぁ。
お菓子作りが得意なお母さんがいたため、私は根っからのお菓子好き。
幼い頃は甘いものを抜くとすぐにぐずってしまう子だったらしく、その度にお母さんがお菓子を作ってくれたものだ。
錬成術で作れるお菓子もあって、お母さんに教えてもらったことがあるから、暇を見つけたらそれを作ろうと思っていたんだけど……
あのアトリエではそんな余裕もなかったなぁ。
まあ、今はこうしてババロアのアトリエからも解放されて時間にも余裕があるし、お菓子作りの錬成もぼちぼち練習していくことにしよう。
私はいつか、お母さんに語った『食べても減らないケーキ』とか『無限にお菓子を取り出せる袋』を錬成するのが夢なんだ。
「キュルル」
そんな子供じみたことを考えていると、傍らの茂みから不意に何かが這い出て来た。

