「ちゃんと宮廷錬成師の手伝いができるかどうか判断するための試験だよ」
「も、もし、その試験に落ちたら……?」
「それはまあ当然、僕のアトリエで雇うって話は無しになるかな。僕の手伝いもまともにできないような見習い錬成師なんか、ただの一般人と変わりはないし、そんな人間を宮廷に入れるわけにはいかないだろ」
「……まあ、確かに」
宮廷側からしてみれば、私はまだなんの実績もない一般人と同じだし。
少なくともクリムの手伝いができるということを証明しなければ入れてもらえないというのは至極当然だ。
それには納得できたけれど、急に試験だと言われてさすがに身構えてしまう。
「心配しなくてもいいよ。あくまで最低限の“素材採取能力”と“錬成技術”があるかどうか確かめるために、簡単な素材採取と傷薬の錬成をやってもらうだけだから」
そう言いながらクリムは一枚の紙をこちらに手渡してくる。
「少し量は多いかもしれないけど、ここに書いてある素材を集めて来て、指定の数の傷薬を錬成してほしい。一応魔物素材も含まれてるけど、討伐難度は低めの奴だからまあ大丈夫でしょ」
「う、うん、わかっ……」
私は紙に目を落としながら同意を示そうとしたが、そこに書かれている内容を見てつい口を止めてしまった。
「えっ、“これだけ”でいいの?」
「はっ?」
クリムの目がきょとんと丸くなる。
同じく私も瞳を見開いて固まってしまう。
宮廷錬成師の手伝いになるための試験って言うくらいだから、かなりの量の素材を持ち帰って来て、大量の傷薬を錬成しなきゃいけないと思ったんだけど。
試験に指定された傷薬は『清涼の粘液』と呼ばれる、溶液の粘液を素材にした初歩的な傷薬で、指定数はたったの三つだけだった。
「これだけって、ここに書いてあるだけでもそれなりの量だと思うけど」
「えっ? そ、そうなんだ……」
私の認識がおかしいのだろうか。
現在時刻は十四時ちょっと。
ここに書いてある素材は王都の西にある森――『ブールの森』ですべて手に入れることができる。
王都から程近い距離にあり、素材の採取難易度と量から察するに、今から集めに行っても日没前に帰って来ることができると思う。
本当にこれだけで合格だと認めてもらえるのだろうか?
私にとって素材採取は、朝早くに王都を出て日付が変わらなかったら上出来というくらいの、超過酷な重労働だったから。
「一日で集め切れないと思ったら、無理に採取を続ける必要もないから。日を跨いでも問題ないし、安全第一で採取に行って来てほしい。僕はここで試験官役の騎士と一緒に待ってるから」
「う、うん。わかった」
ババロアのアトリエとの極度の温度差に戸惑いを禁じ得ない。
ここまで心配されて素材採取に行かされるのは初めてで、私は多大な違和感を抱きながら森に向かって走り出した。

