クリムは呆気にとられる私を見て、そっと後ろに下げてくれる。
背中で庇ってもらいながら、妙な安心感を覚えていると、騎士さんがクリムを見て僅かに目を丸くした。
「あれっ、クリム君じゃん? なに、もしかしてクリム君のお知り合いだった?」
「はい、お騒がせしてしまって申し訳ございません」
何やら慣れた様子のやり取り。
二人の方こそ知り合いだったのだろうか?
「ク、クリム、この人は……?」
「王国騎士団、近衛師団の師団長……ムース・ブルエさんだ」
「し、師団長?」
私は改めて、クリムの背中越しに男性騎士さんを見据える。
近衛師団の師団長のムースさん。
紺色のくせっ毛を気怠げに掻きながら、欠伸を噛み殺しているこの騎士さんが、一師団を指揮する師団長さん?
まるでそんな風には……
「そうは見えない、とでも思ってるのかなぁ?」
「い、いや、そんなことは……!」
「ははっ、冗談冗談。それによく言われるから気にしてないよ。俺もなんで、こんな面倒くさがりな自分が師団長に選ばれてるのかよくわかってないし」
なははぁと、こちらの気が抜けてしまいそうな声で笑っている。
本当になんなのだろうこの人。
話せば話すほど騎士らしさみたいな印象が薄れていくんだけど。
「ていうか、怖がらせちゃってごめんね。まさかお客人だとは思わなくてさ。しかもそれがクリム君のとはね。滅多にお客人なんて呼ばないのに」
次いでムースさんは、改まった様子でクリムに問いかけた。
「で、どうしてこの子をここに連れて来たのかな? あっ、もしかして二人は恋仲だったり……」
「アトリエの手伝いをしてもらおうと思って呼んだだけですよ」
「手伝い? あぁ、そっか、色々と忙しいって言ってたからね。最近は特に開拓師団が、魔物領域に厄介な魔物の巣を見つけたっていう話だから、そのための武器と薬が大量に必要らしいし。で、この子がその手伝いを……」
再びムースさんから視線を向けられて、私は思わずクリムの後ろで小さくなってしまう。
そんなことをしていると、クリムがこちらを振り向いて告げてきた。
「ってわけで、さっそく僕の手伝いをしてもらおうって思ったんだけど、さすがに僕の独断だけで宮廷内のアトリエに入れることはできなくてさ。ショコラには最低限の“試験”を受けてもらうことになった」
「えっ?」
……試験?

