プシューッと音が鳴って電車のドアが開いたここでもぞろぞろと人が乗って来た。

夏祭りの帰り、この駅を使う人もいて。

「?」

ケイが急に立ち上がった。
まだ降りる駅じゃないはずなのになんで…

「すみません、ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げた女の人に手を引かれて小さな男の子が電車に乗って来た。可愛らしい甚平姿で手には私と同じ水ヨーヨーを持って。

この子に席をゆずってあげたの…?

ハッとして私も立ち上がった。男の子の隣に座ってあげてくださいってお母さんに。

座席横の縦についた手すりに寄りかかるケイの隣に立った。

じぃっと気付かれないようにケイの顔を見て。

そっけないし不愛想だし、目つき悪いし声低いし、そんなんだから怖く感じちゃうとこもあるけど…


案外優しいところもあるんだよね。

てゆーか本当は優しいんだ。


優しいんだよね。


「……。」

ケイがごそごそと甚平ポケットから何かを取り出して口に放り込んだ。

あ、この匂い…!

ガムだ、カラいやつだ!

相変わらず強烈なミントの香りだなぁ…よくそんなの平然と食べられるよね。

「それって…おいしいの?」

「別に」

「別に!?え、おいしくないの!?」

「別に」

「おいしくないのに食べてるの!?」

私が聞いたことへの返答にしてはおかしいとは思うけど、真顔でガムを噛んでる姿は確かにおいしそうには見えなくて。

じゃあなんで噛んでるのよ、意味わかんない。

そんな顔を私がしたんだと思う。

「スッキリしていいんだよ」

聞いてもないのに答えが返って来た。