パブリックダーリン~私と彼と彼氏~

そろーっと音を立てないように、ゆっくーり階段を上ってひょこっと頭だけ出した。

ここから見えないってことはやっぱ柏木先輩はあの角を曲がって彗くんの部屋まで行ったのかな、…あの角まで行ってみようかな。

物音を立てないようにつま先で歩いて角っこまで、息をひそめるようにしてちょっとだけ顔を出そうかなって…


「彗は昔からプリンが大好きだったよね?」


柏木先輩の声にピタリと体が止まった。

やっぱ彗くんに持って来たんだ、あのプリン!

「……。」

しーっと自分に言い聞かせて、ちょっとだけ覗いてみようかな…なんて。

「こうやってよく食べてたよね?」

プチンッと音がした。
プリンをカップから取り出すために後ろに付いた棒を折って空気を入れる音…

「!?」


でもね、そーいえばお皿なんて持って来てなかったよね。


おぼんに乗ってたのはプリンとスプーンだけだったよね。


べちゃっと彗くんの頭の上に形の崩れたプリンが落ちて来た。


「食べなよ、ほら」

彗くんの耳元で柏木先輩がささやいた。

「好きなんだろプリン、せっかく持って来てやったんだから」

なんて冷たい声をしてるの…
私に微笑んだ柏木先輩とはまるで“別人”みたい。

「食えよ」

ドンッと彗くんの肩を叩くように押したから、頭の上のプリンがズルッと床に落ちた。

「早く食えよ!」

しーんとした廊下に柏木先輩の冷ややかな声が響く。

彗くんの時とは違う、なんだろうこの感じ…

体が拒絶して動かない動けない。

やばいって悲鳴をあげてるみたい…っ