パブリックダーリン~私と彼と彼氏~

「もう帰るの?」

ずっと下を向きながらここまで来ちゃったから気付かなかった。

「…、柏木先輩っ」

階段を降り切ったところで柏木先輩に会った。

にこっと微笑んで私の顔を見た。

片手にはおぼんを持ってその上にはプッチンとするプリンとスプーンが2つ置かれていた。

「目、大丈夫?」

トンッと人差し指でこめかみの辺りを指差して首を傾げながら私の目を見た。

…あっ、やばい!
めっちゃ泣いた後だすっごい変な顔してる!!

「あ、いえっ」

「彗に何かされた?」

「え!?」

何か…された、とかそんなのじゃ…

いや、されたのかな?
されるとかされてないとかじゃなくて、もっとこう…

もっと!

言い表せられない…っ

「そっか、彗乱暴なところあるからね。ごめんね」

「いえ、そんな!柏木先輩が謝ることじゃ…」

にこりと笑った。笑うと彗くんによく似てる。

「ポシェット、開いてるよ」

くいっとファスナーを引っ張って開いていたポシェットを閉めてくれた。

「あ、ありがとうございます…っ」

よく気がつくし優しい…


ん?


……、?

柏木先輩は知ってるのかな、彗くんの中に彗くんじゃないもう1人の人格がいること。

でも誰にも言うなって言われたし、知らないの?


だけど家族だし、知ってるかも…?

クレープ食べた時、会ってるから知ってるよね!?


え、でも存在は知らない…?

どっちなんだろう…


「せっかくおやつにと思ってプリン持って来たんだけど、もう帰っちゃうよね?」

「あ、はいっ!すみません、全然お気遣いなくっ」

ぺこりと頭を提げて玄関の方に向かった。

このボロボロの顔が見られるのが嫌で早くこの場から離れたかったから…


…でもプリン?


柏木先輩はそのまま階段を上がって行った。

2つのプリンを持って、たぶんあれは私と彗くんに持って来てくれたんだよね?

言い方からしてそんな感じだったもんね。


そのプリンはどっちの彗くんが食べるんだろう?


彗くんはプリンが大好きだけど、彗くんじゃない彗くんはプリンは大嫌い…

今あの部屋にいるのはあいつ…

「………。」

くるっと振り返った、少しだけ気になって立ち止まっちゃった。

あのプリンはどうなるのなかって、気になって静かに階段を上がった。