パブリックダーリン~私と彼と彼氏~

「……、じゃあ」

「は?」

少しだけ下を見るように、ぎゅっとポシェットのショルダーを両手で掴んだ。

「じゃあ…っ」

小さく息を吸って、震えそうになる体を引き締めて。



「どうして、キスしたの…?」



あれは、あの一瞬は、彗くんだった?

もしかしてその瞬間だけ彗くんが私の前に戻って来たのかなって。


ほらさっきみたいに、私に会いたいって思ってくれたんじゃないかなって…


「彗がなかなか手ぇ出せないでいるから、代わりに俺がしてやろーと思ったんだよ」


そう思いたかったのに、少しでも。


「彗の奴うだうだしてるから、男なんだったらもっと…痛ッ!何すんだ!?」

はぁはぁと肩を揺らす。

自慢じゃないけど私は運動が苦手だから球技だって得意じゃない、ボールを投げるのだって苦手だから手加減ってやつができないの。

あ、これは漫画だったけど。

「いってぇなっ!」

床に散らばっていた漫画を1冊手に取ってとにかく大きく振りかぶって投げた。

「最低!!!」

もう大声で怒られても怖くないんだから。

そんなのどうでもいいんだから。


そんなことよりだって…っ


「彗くんをバカにしないで!」


せっかく抑えてた涙だって溢れちゃうくらいに許せないことがあった。

「なんであんたにあんなことされなきゃなんないの!?言われなきゃなんないの!?」

ポロポロと涙が流れて来ちゃって止められなくて、でもやめられなかった。

「いくら彗くんの中にいるからってあんたは彗くんじゃないでしょ!彗くんのこと悪く言わないでよ!私の好きな人なんだから!!」

鼻をすすりながらドアを開け勢いよく飛び出した。

泣きたくないのに出て来る涙を拭って、廊下を駆け抜ける。


最低!


最悪!


なんなのあいつ…!



なんであんなやつが彗くんの中に…っ 



角を曲がっても止まらない勢いのまま階段を降りた、もう絶対あいつに会いたくない気持ちでタタタタッと降りて行った。