パブリックダーリン~私と彼と彼氏~

「…だからさっきも、一瞬だけ彗が現れたんだと思う」

「え…?」

「自分の部屋に紫衣がいたから出て来たんだろ」

……、私がいたから出て来てくれたの?

彗くんも私に会いたいって思ってくれた、のかなぁ。

「でもあれは色々とめんどくせぇから昼寝してたってことにしとくから」

「へ?」

「紫衣も余計なこと言うなよ」

トンッと指を差されて釘を刺されたけど、ちょっと待ってよ!

めんどくさいって何!?
言うよ、余計なこと!!

「昼寝してたことにするってなんなの!?」

「夢見てたってことにしてなかったことにするんだよ」

「なかったことに…っ」

あれ、これは…

この感覚は…

“全然記憶にないんだけど、オレ紫衣ちゃんに何した?”


またそうなの?

また覚えてないの?

こんな気持ち、知らないでしょ?


「…なかったことにされた方は傷付くんだよ」

ぎゅぅっとスカートの裾を握った。

思い出しちゃって、また泣きそうになった。

「彗くんと一緒にいる時間が好きなのに、その時間を奪っといて挙句の果てにはなかったことにする?なんなの、ふざけないでよ!」

あの日、突然彗くんが彗くんじゃないみたいになってびっくりした。

強引に抱きしめられたり、睨まれたり、それに…っ


でも覚えてなかったって言われた方が悲しかったよ。

私のこと、忘れちゃったみたいで。


「じゃあそうゆうことにしといてやるよ」

「…そうゆうことにしといてやる?」

水分が溜まりそうになる瞳を押さえ、顔を上げて横を見た。

「俺は記憶の操作も出来るからな」

二重人格ってやつは私の想像つかないことばかりだ。